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睡眠の質を高めると様々なメリットがある、と言われているとおり、睡眠と私たち人間は密接に関係しています。しかしながら、厚生労働省の調査では、現代人の5人に1人は睡眠になにかしらの問題を抱えているということが明らかになっており、まさに睡眠障害は現代病のひとつだとも言われています。
私の肌感覚では2011年3月11日の東日本大震災の影響もあったように感じますが、近年は未だかつてないほど睡眠という領域に多くの方が関心を示しています。その背景には3つの時代の移り変わりが大きく影響しています。
不眠が現代病化している原因の1つ目に挙げられるのが「ストレス社会」。最近では厚生労働省が夏の生活スタイル変革、また働き方改革の一環として始業時間を早めて、その分早めに帰宅をする「ゆう活」という国民運動を推奨していますが、もともと日本は有給就業時間が大変長い国です。真面目な日本人の気質も後押しし、これまで長時間労働や休日返上労働を余儀なくされて働き続ける人が多かったため、現代のストレス社会をつくり出したといえます。また、自己主張があまり得意ではない日本人は、自分の意見や負の感情などを自分の中に押さえ込む習性があり、こういった面もストレス過多な社会をつくりだした一因だといえるでしょう。
2つ目は「交代勤務の増加」。人工衛星から夜の地球を映すと、日本はまるで宝石箱のようにキラキラと輝き、浮かび上がってみえるのです。まさに「休まぬ国、日本」といった状態。今や、病院だけでなく、コンビニエンスストア、夜行バス、ガソリンスタンド、タクシー、漫画喫茶、居酒屋など、24時間ノンストップで営業しているところが多数存在しており、つまり、医療従事者だけに留まらず、それだけ多くの方が睡眠を犠牲にして働いているということが分かります。同時に、夜間でも昼間と同じように活動を続ける人口が増えていることを意味しているのです。

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太陽は沈み、また昇る。この自然なリズムに沿って体も活動モードを切り替える

人類が誕生したといわれる200万年前、地球にはもちろん今のように明るい照明などありませんでしたから、人類の身体には「夜は暗いもの」という情報が刻みこまれています。夜は暗くなって体は休息モードになり、日がのぼるにつれて体温が上昇して覚醒し、体が活動モードに切り替わるという、これが本来の体がもつ自然なリズムなのです。
エジソンが白熱電球を発明したのは1879年。この発明によって不夜城と変化した24時間都市は大量の夜型人間を生み出し、当時は「世界から夜が消えた」と言われたそうです。夜が消えた世界は多くの人を睡眠不足や睡眠障害へと追い込み、こういった状況を「エジソンの呪い」と呼ぶ睡眠研究者もいます。便利の裏には大きな副作用があり、人間の心や体の健康をボディーブローのようにじわじわ蝕んでいるという事実から、目を背けてはいけないのです。
3つ目は「インターネットの普及」。この20年の間にパソコンやインターネット、携帯、スマートフォンなどのテクノロジーはみるみる発達し、今を生きる私たちにとってインターネットもスマートフォンも日常生活の中で手放せないもの。もはや体の一部ともいえるほどの重要な存在に成長してきました。手の中だけで世界とつながれる、いつでも知りたい情報が入手できる、そんな素晴らしい面がある一方、見落とせない影も存在します。
これだけ仕事でもプライベートでもデジタルにさらされている環境は必ずしも健康的とはいえず、知らず知らずのうちにテクノストレスを溜め込んでしまっている人も多いようです。睡眠は光りの影響をダイレクトに受けるため、暗い時間帯に明るい光りが目に入ると脳が昼間だと勘違いしてしまい、睡眠が妨げられてしまいます。

 

時間がないときに削るプライオリティタイムとして、迷うことなく睡眠時間が挙げられる

 

日本人は保健体育の中でほんの少し「休息」について学んだ程度で、しっかりと睡眠をとることのメリットや、逆にとらないことのリスクについて教育を受けられる機会がありませんでした。従って、今尚、時間がないときや忙しいときに削るプライオリティタイムとして、迷うことなく睡眠時間が挙げられるという環境が残念ながら当たり前のようになっています。

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夜がきて暗くなったから眠り、太陽とともに目覚める。これほどシンプルなことに対して多くの人が悩み、苦しむ時代がやってくるとは人類の進化上、想定もしていなかったことでしょう。不眠は精神的、肉体的、産業事故や医療費などの経済的な問題の引き金となり、公衆衛生学的にも産業衛生学的にも非常に大きな問題です。
では一体、どのように睡眠の質を高めることができるのでしょうか。考慮しなければならない項目がいくつかありますが、なかでも「光」は重要な要素のひとつです。この連載では、光を上手に利用し、快眠を促す具体的な方法をお話していきたいと思います。
睡眠の質を高めることは健康の質、キレイの質、そして明日の質を高めることです。快眠生活を一緒に実践していきましょう。