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メイクアップでキレイになることと、光り輝くことは、切っても切り離せない関係です。女性を美しく輝かせるため、ラメの入った光るアイシャドーや、“パール”と名のつく光るファンデーションが多数発売されています。でも、敏感肌やアトピーなどを抱える女性にとって、これらの化粧品は腫れたりかぶれてしまう心配があり、泣く泣く利用を控えざるを得ない方も多かったのではないでしょうか。

この問題を解決するために、肌に対して問題がないと分かっている原料の組み合わせを用いることで薄い膜をつくり、発色をコントロールする方法が開発され、利用されてきています。実はここには、チョウの翅(はね)、クジャクの羽、シャボン玉、オパールなどと共通する、色のしくみが隠されているのです。

実際は色素が無いのにキラキラ輝くもの。チョウの翅(はね)、クジャクの羽、シャボン玉、オパールなどは、同じ色のしくみで出来ています。

その名は「構造色」。クジャクやタマムシ、“川辺の宝石”と評されるカワセミ、そしてモルフォチョウに代表されるキラキラ輝く昆虫や動物は、見る角度によって色が変化する立体感がある「構造色」の仕組みを身に宿しているのです。自然界には、このような構造色を持つ生物が数多く存在しています。普通の「色素がある色」、例えば「赤」とか「青」には、キラキラするような輝きは見られず、のっぺりとした感じがしますよね。一方「構造色」には、実は色素というものがそもそも含まれていないのです。

なぜ、構造色は色素がないのに、美しい色が見えるのでしょうか。

虹色に光って見えるシャボン玉も、構造色で「色」が見えるもののひとつです。シャボン玉は光の加減でいろいろな色が見えてきますが、「虹色」がついているわけではありません。シャボン玉が虹色に見える秘密は、ズバリ、数百ナノメートルという薄い「膜」と、光の関係にあるのです。(ちなみに、100ナノメートルは、1ミリメートルの1万分の1です。想像できないくらい薄いですね)

太陽光には、実は、赤色や青色、黄色や緑色など、さまざまな色が含まれていて、それぞれが異なる波長を持っています。私たちが目で見ることができる波長は、一番長い波長の赤色から、一番短い波長の紫色まで、約400ナノメートルの幅があります。これらの光が透明なシャボン玉の膜を通るとき、面白い現象が起こります。膜の“厚み”に応じて、反射する光の波長(=色)が異なってくるのです。

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膜は見る角度によって厚みが微妙に違います。この厚みによって、シャボン玉に反射する光の波長が変化し、赤から紫までのさまざまな色が見えてくるのです。シャボン玉で青く見えているところは、青色の光の波長がピッタリと合った状態で反射している場所、同様に、赤く見えているところは、赤い光の波長がピッタリと合った状態で反射している場所というわけです。

このように、そのもの自体は透明であるにも関わらず、色がついているように見える色のことを、構造色と呼んでいます。構造色とはつまり、ものの構造が生み出す色のことなのです。CDのディスクの裏側がキラキラ光って七色の光に見えるのも、実は同じ仕組みによるものです。

さて、構造色の例として最も単純なしくみのシャボン玉を挙げましたが、自然界には、複雑な構造色を持つ生物がたくさんいます。その代表例が、世界一美しいチョウとして有名なモルフォチョウです。中南米に生息する大型のチョウで、オスの翅は、まばゆいほど光輝くメタリックブルーをしていますが、実はその鱗粉(りんぷん)には青い色素は含まれておらず、かわりに微細な構造が含まれています。

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通常、チョウの翅の美しい色模様は、翅を持ったときに手につく粉のようなもの、鱗粉の集まりによってできています。例えば、モンキチョウの鱗粉は黄色の色素、アゲハチョウの鱗粉は黒色や黄色の色素を持っています。それに対し、モルフォチョウの鱗粉が見せる、この美しく輝くメタリックブルーは、色素ではなく構造色が私たちに見せている色なのです。

しかし、モルフォチョウの場合、シャボン玉ほど単純ではありません。翅の表面を屋根瓦のようにビッシリと覆っている鱗粉の大きさは、縦0.1ミリメートル、横0.05ミリメートルと、とてもとても小さいもの。この小さい鱗粉1つひとつを顕微鏡で拡大して見てみると、何段もの棚構造になっており、これがシャボン玉でいうところの膜の役割を果たして、光が当たると棚の上面や下面で反射するのです。

縦0.1ミリメートル、横0.05ミリメートルの鱗粉ひとつひとつが持っている、複雑な形。そこに反射する光が見せる、輝くブルーの奇跡。

反射する光の中で、青色の光の波長だけがピッタリと合った状態で強く反射して出てくるように、実に巧妙に計算されているのです。もし棚の厚みや間隔がもう少し狭かったり広かったりしたら、別の色が反射して、モルフォチョウは今とはまったく異なる色に見えていたことでしょう。

モルフォチョウの翅にエタノールをかけると色が変化し、エタノールが蒸発すると、元の青色に戻ります。鱗粉のツリー構造の間に入っていた空気がエタノールに置き換わることで、光の屈折率が変化し、反射する光の波長が変化するためです。

このように、構造色は、ナノメートルサイズの微細な構造によって、生み出されるもので、その形状や材質は生物の種類によって多種多様です。モルフォチョウの翅は、構造色の中でもトップクラスの複雑な構造をしていますが、他にもたくさんの昆虫や鳥、魚が構造色を利用して、鮮やかな色を発しています。

例えばタマムシは、薄い膜が幾重にも重なった多層膜構造により、あの美しい緑色を実現しています。また、ハトの首の周りの緑色や紫色に見える部分も、シャボン玉の膜と同じしくみの構造色であることが分かりました。

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 昆虫や鳥の羽根には見られない特徴をもっているのは、熱帯魚のネオンテトラです。ストライプの部分が構造色になっているのですが、周囲の明るさによって色が変化するのです。構造色を生み出す細胞の構造が、環境や刺激によって微妙に変化するからです。魚が興奮状態になることで、緑色や黄色にも変化します。

近年、物質をナノメートルスケール(10億分の1メートルのスケール。髪の毛の太さの1万分の1程度の幅です)で扱う“ナノテクノロジー”が急速に発展してきました。この技術を用い、生物が長年にわたって進化させ、利用してきた構造色という発色方法を真似て、我々の生活に生かしていこうという動きが活発化してきています。構造色を使えば、色素では出せないような色を出すことができるだけでなく、染料や塗料を使う必要がないので、環境にやさしく、いつまでも色褪せないからです。

自然界には、まだまだ知られていない構造色がたくさんあると思われます。また、生物は、なぜ色素ではなく、構造色を利用しているのかといったことも、ほとんど分かっていません。今後も構造色の謎の解明に向け、研究を続けていきます。

皆さんも、身近にある構造色を是非探してみて下さい。

(文・構成/山田久美)