YOUTUBEなどの動画SNSの普及にともない、アマチュアによる事故現場の撮影が当たり前のものとなってきました。調布の小型飛行機墜落事故でも、テレビで使用されているのは一般市民の撮影した映像です。

既存のメディアに属さず、セレブを付け回し事故現場を興味本位で撮影するカメラマンは、パパラッチと呼ばれてきましたが、今の時代、その気になれば誰もがパパラッチになりえる危険性があることを、このところの事故映像は私たちに教えてくれます。

犯罪/事故現場に誰よりも早く到着して、陰惨な状況をVTRに収める「報道パパラッチ」を主人公に、現代社会の光と陰を描くのが『ナイトクローラー』です。

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舞台となるのはロサンゼルス。広大なエリアには、ビバリーヒルズのような高級住宅地がある一方、ダウンタウンでは職を求める貧困層が鬱屈と暮らしています。そして圧倒的な車社会。そこには必然として、事故や犯罪が多発します。

報道スクープ専門の映像パパラッチ(通称“ナイトクローラー”)、ルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール)はテレビ局への売り込みのため、視聴率がとれる刺激的な映像を狙って、夜のLAを猛スピードの車で走り回ります。しかし、それで飽き足らなくなると、自分自身であらかじめ作ったストーリー通りにことを運ぼうとするようになっていきます。

夜のロサンゼルスの犯罪を切り取るのはカメラであり、現場を照射するライトです。闇に消えるはずだった事件は、ライトの光によって鮮やかな色を帯び、テレビを通して世の中に広まっていきます。

光が明らかにするものは、犯罪だけではありません。視聴率のためならモラルなど眼中にないTVプロデューサー、グローバリゼーション=効率至上主義がもたらす新たな奴隷制度など、現代社会の闇を暴きだしていきます。ただしそれは、狂気を持つ者のカメラによってである、という事実が、本作の最大の見せどころだともいえます。
かつて「100万ドルの夜景」とうたわれたロサンゼルス。100万ドルが高額を意味しなくなった現在、カメラ・ライトに照らし出される「一瞬」のほうにこそ価値があるーー作品を見た後に、ふとそんな気持ちに襲われました。

☆ ☆ ☆

■ 『ナイトクローラー』
8月22日(土)より
ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
配給:ギャガ
公式サイト:nightcrawler.gaga.ne.jp
© 2013 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

■ 関連サイト
『ナイトクローラー』公式サイト
http://nightcrawler.gaga.ne.jp

 
「ロッテントマト」での評価
「ロッテントマト」は全米No.1映画評サイト。「ロッテントマト」で満足度95%を得たことからも、本作の完成度の高さがうかがえます。
http://www.rottentomatoes.com/m/nightcrawler/

 
主演・ジェイク・ギレンホールのプロフィール(allcinema Movie & DVD Database)

『ブロークバック・マウンテン』でアカデミー賞にノミネートされるなど、ハリウッドの話題の中心のひとりとなったジェイク・ギレンホール。『ナイトクローラー』ではプロデューサーとしても参画しました。
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=285920

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文:和坂康雄