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普段、私たちはあまり意識することがないかもしれませんが、自然界のあらゆるものは、月や太陽の影響を受けています。もしかしたら、現代の科学が発達する以前に暮らしていた人たちの方が、そういったものを実感しやすかったかもしれません。日照時間の変化を山の影などで察知し、種まきの時期を決めたり、月の満ち欠けを意識して農作業などに生かしていたりといった名残を、今でも、ときどき耳にすることがあります。

 

「新月伐採」という言葉をご存じでしょうか。11月から12月の下弦の月から新月の間に伐採された木は、腐りにくく、反りにくい、虫がつかないなど、木材にとって良い面を兼ね備えていると言われています。月の引力は、地球上の液体に与える影響がとても大きく、月の満ち欠けと、海の干満が連動していることは、皆さんもご存じのとおりです。植物の中の樹液も例外ではありません。

新月のときには、樹液の流れは下降し、根部に集中し、満月になると樹液は葉や花の部分に集中するようになります。

新月のときには、樹液の流れは下降し、根部に集中し、上弦の月になるにつれて、樹液の流れは上昇しはじめます。満月になると樹液は葉や花の部分に集中するようになり、下弦の月になると、再び、樹液は根部に下降しはじめます。ですから、樹液が根部に集まっていて、幹や枝の部分の樹液が少ない時期に伐採すると、腐りにくい良い材が採れるということになるわけです。

 

ところで、筆者の本業はガーデナーです。ガーデンの設計・施工、そして、竣工した後のガーデンの植栽の年間管理などを行っています。植栽の管理に関しては、環境に影響を与える化学農薬を極力使用しないオーガニックな手法で行っています。

 

オーガニックなガーデニングは、ドイツやイギリス、北欧などではごく一般的なことなのですが、高温多湿の日本では、ヨーロッパに比べると病気や害虫が発生しやすく、なかなか難しい。もともとの植生も違い、ヨーロッパと全く同じ手法ではできないので、日本独自のやり方を探っていかなければなりません。そんな、日本独自の「オーガニックなガーデニング」の手法をいろいろと試行錯誤していく中で、「植物と月の関係」という考え方にも出会いました。

 

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「新月伐採」の考え方を応用すると、例えば、オレンジなどの果実は、樹液が上部に上昇する上弦の月~満月の時期に収穫するとジューシーで美味しい実が収穫できるということになります。野菜も同様で、トマトやキュウリなどの実もの野菜は、満月の前後に収穫すると、より、ジューシーなものになります。逆にイネやムギなどの穀物は、乾燥させて貯蔵させるものなので、長期間にわたって味を落とさず、害虫などの被害を受けないようにするには、下弦の月~新月の間に収穫すると良いとされています。

 

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この樹液の流れをうまく活用すると、根元への追肥は、水分が上部へ上がっていく前の新月~上弦の月の前に行っておくと良く、液肥の葉面散布は、水分が上部に集中している上弦~満月の間に行うと良いということになります。また、種まきは満月の5日前から満月までに行うと、良く育ち、実を多く結ぶと言われていたりもします。

 

月の満ち欠けは、生物の発生周期にも関係しているといわれていて、例えば、ウミガメの産卵は満月の日に一番多いという事例は有名です。チョウの卵も上限の月~満月の頃に孵化し、幼虫になることが多いとも言われています。ということは、植物にとっての害虫であるアオムシやケムシ(チョウやガの幼虫)は、上限の月~満月の頃に最も発生するということになるので、この時期に合わせて薬剤を散布すれば、効率的に害虫の防除をすることができます。筆者も、年間管理をしている、あるガーデンの作業の際に、実際に、月の満ち欠けのサイクルを参考にしながら薬剤散布を行ってみたことがあります。その年の天候などによって、他の年と厳密に比較することは難しいのですが、確かにその年は、幼虫の発生初期に害虫を抑えることができたように思います。

目の前で起きている現象だけでなく、見えない部分にも意識を向けて、野菜や植物と向き合う

 

このような月の満ち欠けのサイクルを農業に生かすという考え方は、今でも世界各地で行われていますが、これをさらに進化させた考え方が、ルドルフ・シュタイナーの「バイオダイナミック農法」です。月の満ち欠けだけでなく、人間や動物、植物や鉱物、さらに宇宙のエネルギーなど、この世界のすべての要素が農場有機体をかたち作っているというダイナミックなものでした。

 

確かに、野菜や植物の栽培を経験したことのある方は、決して、人間の力だけで何かが出来るわけではないということを実感されていると思います。「食物は自然の恵み」と言われますが、まさに、その通りだと思います。

 

野菜を育てていると、「害虫がついてしまった!どんな薬剤を使えば良いのだろう?」とか、「葉が黄色くなりはじめているから、水やりをもっとしなくては!」など、目の前で起きている現象に対処することで頭がいっぱいになってしまいがちですが、是非、見えない部分にも意識を向けてみることをおすすめします。例えば、野菜の生育と月の満ち欠けの関係を意識するようになったら、毎晩、月を見上げるようになったりするなど、新たな発見や意識の広がりなどを実感できることでしょう。

参考文献
・ハイロ・レストレポ・リベラ著『月と農業 中南米農民の有機農法と暮らしの技術』
http://www.amazon.co.jp/dp/454007296X

・ジョン・ソーパー著『バイオダイナミックガーデニング』
http://www.amazon.co.jp/dp/4863470126