刑部信人(おさかべのぶと)氏の初めての作品集『花火』(2015年)を手にしたとき、この若い写真家の思考的な深さを感じました。どこにでもある花火をいまいかにして写真とするべきなのだろうか? その苦悩を通して彼が選んだのは、デジタルカメラによる、まるでサイエンスの世界とでもいうべき、幾何学的な花火の描写でした。情緒的なコンテクストを排し、放たれたエネルギーとしての光を凝縮させたのでした。
 

そして今年9月に発売予定の第二作『HOLIDAY』は一作目のアプローチとは異なり、刑部氏が10年来、フィルムで撮り続けてきた「休日」の情景シリーズとなりました。そこでは、遊園地や公園、動物園などの観光スポットーー人工と自然、日常と非日常、個人と公共ーーの臨界点的な場所に集うひとびとの、ゆったりとした時間の流れが表現されています。

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それは現代の里山的な風景でもあります。日本人は古来より、里山のようなひとの手の入った自然を愛してきましたが、その感覚は現代にも継承されています。人工的な建造物にも自然の要素を見つけ出し、ひとびとが集うことでいつのまにか里山の風景に変えてしまうのです。

 
刑部氏の写真には、その日本的な感覚が見事に捉えられています。そこにある共生の幸福な情景に、見るひとはDNAに刻まれた懐かしさや憶えることになるでしょう。
 
前作で初めて彼を知った読者からすると、今回の作品との間の振り幅に驚かされるかもしれません。しかし、それは刑部氏の視点の広さを物語るものであり、それこそが写真家としての思考の深さといえるでしょう。

 
会場で展示されるのは40点。きっとあなたの思いにつながる一枚がそこにあるはずです。
 
 

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■ 写真展 刑部信人「HOLIDAY」
会場:GALLERY SPEAK FOR
住所:東京都渋谷区猿楽町28-2 SPEAK FOR 2F
会期:2015年9月4日(金)〜16日(水)
11:00-19:00 毎週木曜休
入場無料
http://www.galleryspeakfor.com

 
ギャラリートーク
2015年9月4日(金)18:30〜19:00
入場無料 作品解説/刑部信人

 
■ 写真集『HOLIDAY』(2015年9月発売予定)
著者/刑部信人 出版社/FOIL 税抜予価/3,000円

 

■ 関連サイト
刑部信人 公式HP
刑部氏のパーソナルワークから広告作品までを概覧できます。今回の展覧会「HOLIDAY」の原型となった作品群も見ることができます。
http://nobuto-osakabe.com

 
第一作『花火』の紹介記事(ウェブマガジン「haconiwa」より)
刑部氏の初めての作品集『花火』を掲載作品とともに紹介しています。撮影方法などの制作過程を知ることができます。
http://www.haconiwa-mag.com/magazine/2015/04/nobuto_osakabe_hanabi/

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「オラ・リンダル写真集『Distance』」(2015.7.31)
五感的なアプローチを創作のテーマとするノルウェーの写真家について。ノルウェーの森の神秘をバックボーンに、光への渇望が描かれます。
http://media.style.co.jp//2015/07/851/
 
文:和坂康雄