高積雲 ©岩槻秀明

2015年10月8日は、二十四節気の「寒露」。朝晩が冷え込むようになり、明け方に草むらを歩くと、草に降りた露が裾を濡らします。でも、昼間の気温は過ごしやすく、絶好の行楽シーズンです。外に出かけて、ふと空を見上げると、思わずはっとさせられるのが、空の高さ。澄んだ空にはさまざまな雲が浮かび、つい飽きることなく眺めてしまうものです。

 

というわけで、今回は秋の雲についてお話しします。空の現象に詳しい、先輩気象予報士の岩槻秀明さんにお話を伺いました。

澄んだ秋空に浮かぶさまざまな雲は、低気圧がもたらしたもの

 

秋の空と聞いて、まずイメージするのが、空に細かいうろこのような雲が並ぶ、うろこ雲(巻積雲)や、モコモコの羊のようなひつじ雲(高積雲)でしょう。ふたつの雲はよく似ていますが、少しだけ違います。

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高積雲 ©岩槻秀明

巻積雲は地上から約5000~12000mの高度にできる雲です。この高度の気温は氷点下となるため、雲は氷の粒でできています。一方、高積雲はもっと低い場所にできる雲で、氷と水の粒が混在しています。巻積雲は薄くてひとつひとつの雲が小さく、高積雲は雲が多少立体的で雲もやや大きくなります。

 

二種類の雲は、空に向かって人差し指をかざせばすぐに見分けられます。雲の粒が指先よりも小さければ巻積雲、大きければ高積雲と覚えておきましょう。

 

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巻雲 ©岩槻秀明

青空に刷毛で描いたようなすじ雲(巻雲)も印象的です。こちらも、対流圏の上層にできる氷の粒でできた雲です。ひとくちに巻雲といっても、放射状の形をしたものや、綿をちぎったような形など、形はさまざま。つい空を見上げて面白い雲が出ていないか探してみたくなりますね。

 

実は、空の雲は大きく10種類に分類できます。上層にできるものは、巻雲、巻積雲、巻層雲(うす雲)。中層は高積雲、高層雲(おぼろ雲)、乱層雲(雨雲)。下層には、層雲(霧雲)と層積雲(うね雲)があります。このほか、晴れた日によく見る積雲(綿雲)や、激しい雨や雷をもたらす積乱雲(雷雲)もあります。雲の名前には法則があり、上層にできる雲には「巻」が、中層は「高」がつくことがわかります。また、横に広がるような雲には「層」が、モコモコと立体的な雲には「積」が、雨を降らせる雲には「乱」がついています。

前線に伴って発生する10種類の雲。「巻」「高」「層」「積」「乱」五つの文字で、雲の形状が分かります。

 

これら10種類の雲のほとんどは、前線に伴って発生する雲です。高気圧に覆われているときは、空には雲ができません。しかし、西から温帯低気圧が近づき、それに伴って温暖前線が近づいてくると、巻雲や巻層雲が現れます。そして次第に雲は空全体に広がり、できる場所も低くなっていきます。やがて温暖前線が通過すると、乱層雲などから比較的穏やかな雨が降るのです。一方、温帯低気圧には寒冷前線もあります。こちらの前線では積乱雲が発生し、雷を伴う激しい雨が降ることが多いです。温暖前線と寒冷前線で雨の降り方が違うのは、発生する雲の種類が違うからなのです。

 

ところで、前線が訪れるのは何も秋だけではありません。それなのに、秋空の雲の印象が強いのはなぜでしょうか。それは、秋の空気が澄んでいるからです。空気中に塵や水蒸気が多いと、空はどうしても白っぽく見えがちになるのです。澄んだ空気がもたらす青空と白い雲。このコントラストが、秋空の雲を強く印象づけるのでしょうね。

 

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太陽の暈 ©岩槻秀明

 

温暖前線に伴ってできる雲として、もうひとつ印象的なのが巻層雲です。この雲は薄く広がり、太陽や月のまわりに白い暈を作ります。「暈ができたら次の日は雨」ということわざがよく当たるのは、温暖前線に伴ってできる雲だからです。

 

巻層雲も対流圏の上層にあり、氷の粒でできた雲です。氷の粒は、平らな六角形の板や六角柱、ピラミッドの形など、さまざまです。氷の粒の形や大きさ、光の当たり方などで、暈の大きさは変わります。

 
 

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幻日 ©岩槻秀明

 
 

また、ときには暈の円周上の太陽の両脇に小さな光が見えることもあります。これを「幻日」といいます。幻日は通常白っぽい色をしていますが、たまに虹色のものも現れます。虹色に見える条件は、雲の中の氷の粒の形や大きさが比較的揃っているとき。同様のメカニズムで、暈も虹色になることがあります。もし、虹色の暈や幻日を見つけたら、それはかなりレアな状況です。絶好のシャッターチャンスなので、カメラの用意をお忘れなく。

 

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笠雲 ©岩槻秀明

 

秋には、ちょっと変わった雲も現れやすくなります。富士山などの山頂に笠をかぶったような笠雲や、まるでUFOのように浮かぶ、紡錘形のレンズ雲などです。これらは、層積雲の一種で、強い風が高い山を越えた時に発生しやすくなります。笠雲は、風が山を越えるときに強制的に上昇し、山肌を下降するときにできます。この風の上昇と下降は、山を越えてからもしばらく続き、山から少し離れた場所で風が上昇すると、レンズ雲ができるのです。

 

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レンズ雲 ©岩槻秀明

レンズ雲も笠雲も、年中できる雲ではあるのですが、秋に観察しやすくなるのは、台風に伴う強い風が吹きやすいからです。北西の季節風が吹き始めた初冬の太平洋側でも観察しやすいでしょう。

 
 

天高く馬肥ゆる秋。行楽で外に出たら、澄んだ青空を見上げて、たくさんの雲を観察してみませんか?

 
 
 

取材協力先:
岩槻秀明
1982年宮城県生まれ。人間総合科学大学人間科学部卒。気象予報士。千葉県立関宿城博物館展示協力員。自然科学系ライターとして、気象学や植物、昆虫などの書籍の執筆を行う。また、学校や公民館で自然観察講座や気象講座の講師も勤める。「わぴちゃん」の愛称でテレビやラジオにも出演。『雲の図鑑』(ベスト新書)、『最新版  街でよく見かける 雑草や野草がよーくわかる本』(秀和システム)ほか、著書多数。