(c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

宇宙からの見えない「光」である電波をとらえるアルマ望遠鏡

私たちが普段目する光は、「可視光」と呼ばれる電磁波の一種です。電磁波とはエックス線や赤外線、可視光、電波などの総称。ところが、マイナス260度に達することもあるとても冷たいチリやガスが宇宙空間にはたくさんあり、光を放射しないため、私たちはその姿を光で見ることができません。
 
一方、宇宙にあるチリやガスは、可視光よりも波長が長い電波を放射するため、それらを捉える電波望遠鏡であれば、低温の宇宙の姿を「見る」ことができます。そのように、目には見えない「光」を観測して、宇宙の姿を解明するために作られたのが、アルマ望遠鏡です。
 

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(c)国立天文台

 
 
アルマ望遠鏡は、日本など21の国や地域が共同でチリに建設した、巨大な電波望遠鏡です。標高約5000メートルのアタカマ高地という場所にあります。日本からは飛行機を乗り継いで1日半以上かかります。どうしてこんなに辺鄙な場所に作ったのでしょうか。それは、ここは標高が高いうえ乾燥しているため、水蒸気に吸収されやすい電波を捉えやすく、理想的な観測条件が揃っているためです。
 

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(c) Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO

望遠鏡、といっても、普段私たちが天体観測に使うものとは異なります。66台の巨大なパラボラアンテナを山手線内に相当する広い土地に設置し、それらはあたかも1台の望遠鏡のように振る舞います。その解像度(視力に相当します)は、ハワイにあるすばる望遠鏡や宇宙空間にあるハッブル宇宙望遠鏡をしのぎ、東京から大阪にある1円玉を見分けられるほどです。
 
私たちはこのアルマ望遠鏡を使って、さまざまな観測を行っています。宇宙ができて間もないころの生まれたての銀河や、星の誕生の様子、太陽系のような惑星系の誕生、生命に関連した物質などを調べるのが目的です。
 
2011年、アルマ望遠鏡は、死につつある星「ちょうこくしつ座R星」が放つ電波をとらえることに成功しました。その電波から合成した電波天体写真はとても美しく、星の死の過程を雄弁に物語ってくれましたが、普段宇宙と接する機会のあまりない方にとってはとっつきにくいもの。そこで、観測データを音に変換して表現することで、より多くの方にアルマ望遠鏡の存在とこの観測の意義に触れていただこうというプロジェクトを始めました。

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撮影:木奥恵三 写真提供:金沢21世紀美術館

 
このプロジェクトでは、エピファニーワークス代表の林口砂里さんと私が共同プロデューサーを務め、川村真司さん(PARTY)や澤井妙治さん(Qosmo)をはじめとするクリエイターの皆さんと協働してオルゴール作品「ALMA MUSIC BOX」が完成しました。これは、アルマ望遠鏡が撮影したちょうこくしつ座R星の円形の画像を円形のオルゴール板の上に投影し、電波の強いところに穴をあける、という方法で作られたものです。
 

電波でとらえた死にゆく星の観測データから、音楽をつくりました

きれいな旋律になるように、という人為的な操作が入っていないので、宇宙の姿をそのまま写し取った音といってもよいでしょう。さらに、アルマ望遠鏡は一度に複数の周波数の電波で観測して画像を作り出すことができます。そこでALMA MUSIC BOXでは、周波数ごとに異なる70枚の画像をもとに、70枚の音色の異なるオルゴール盤をつくったのです。

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撮影:木奥恵三 写真提供:金沢21世紀美術館

 
そしてこのたび、このオルゴールのメロディをもとに、国内外のミュージシャンたちが音楽を制作したコンピレーションアルバムができました。クラウドファンディングを通じて、多くの方からご支援いただき実現しました。70種類のオルゴールの音をミュージシャンがそれぞれの解釈で曲に取り込んだことで、いろいろな宇宙の音楽が生まれました。9月30日に発売になりましたので、ぜひ聴いてみてください。あなたの中にも、あなた独自の宇宙が生まれるかもしれません。
 
また、金沢21世紀美術館「われらの時代:ポスト工業化社会の美術」にて、オルゴール作品「ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律」を展示しています。こちらもぜひご覧ください。
 
 

(文・構成/長倉 克枝)

 
 

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◎Music for A Dying Star 死にゆく星へ
ALMA MUSIC BOX × 11 artists
http://alma.mtk.nao.ac.jp/musicbox/
http://almadyingstar.jp/
 
発売日:2015年9月30日
価格:3,000円(税込み)(本体価格:2,778円)
発売元:エピファニーワークス
参加ミュージシャン:澤井妙治、蓮沼執太、湯川潮音、伊藤ゴロー、高木正勝、milk(梅林太郎)、Throwing a Spoon(トウヤマタケオ×徳澤青弦)、mito(クラムボン)、滞空時間、Steve Jansen、Christian Fennesz
 
 
 
 
金沢21世紀美術館「われらの時代:ポスト工業化社会の美術」
http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=45&d=1724
会期:2015年5月26日(火)– 11月15日(日)
時間:10:00−18:00(金・土曜日は20:00まで)
休場日:毎週月曜日(ただし、7月20日、8月17日は開場)、7月21日(火)
会場:金沢21世紀美術館 デザインギャラリー
主催:金沢21世紀美術館[公益財団法人金沢芸術創造財団]