澄んだ空気と寒い星空が魅せる、人類のロマンと物語。

これからは、一年のなかでも特に星が美しい季節です。シリウスやオリオン座をはじめ、明るい星が多く、澄んだ空気もあいまって、よりいっそう星々が明るく輝いているように感じられます。古今東西、人類は絶えず宇宙にあこがれ、できるならば宇宙に行きたいと願ってきました。日本最古の物語と言われる『竹取物語』も、その願望をかたちにしたものかもしれません。
 

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野尻抱影『野尻抱影 星は周る』

 
星空のロマンを縦横無尽に語ったひととして、随筆家の野尻抱影(のじりほうえい)がいます。世界各地のさまざまな星の名前や伝説を集めたことでも有名で、抱影の文章を読んでいると、古代から現在に至るまで、いかに人類が星空を愛し、親しんできたかがわかります。
 
抱影は、冬の星空を讃美して次のように書いています。
 

「星に親しむ者には、こういう冬の夜がどんなに楽しいか知れない。……冬の魅惑はまったく夜の星空にある」

ーー2015年12月刊行『野尻抱影 星は周る』より
 
星空を見るのが好きなかたは、みなさん同意なさるのではないでしょうか。寒くても、少し立ち止まって空を見上げていたい。そんな思いがひしひしと伝わってくる一文です。
ちなみに抱影は生前、オリオン座をみずからの墓地と定めていたそうです。

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宇宙へのあこがれを、ハッブル宇宙望遠鏡の光学技師だった父の死という個人的な体験と結びつけ、独特な世界観を創り出したのが、トレイシー・K・スミスの詩集『火星の生命』です。スミスはこの本で、2012年度のピュリッツァー賞を受賞しました。
 

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トレイシー・K・スミス『火星の生命』

 
ところで、この詩集のタイトルを聞いてピンときたあなたは、かなりの音楽好きとお見受けします。このタイトルは、デヴィッド・ボウイの1973年の曲「Life on Mars?」の引用。ロック史に残る名作アルバム『ジギー・スターダスト』で異星人に扮したボウイは、この詩集の随所に登場する、いわば「超越」的な存在です。
 
この本の中でボウイは次のように書かれています。
 

「ボウイはけっして死なない。眠っている彼を迎えにやってくるものも/血管を通って突進してくるものもない。彼はけっして歳をとらない」

 
そして、スミスの内的なミニマムの世界と宇宙空間をつなぐのが、「異星人」たるボウイです。
 

「未来はもう以前のようじゃない。ボウイでさえ渇きをおぼえ/なにか冷たくておいしいものが欲しい。ジェット機が瞬き空を横切っていく/移動性の魂のように」

 
この詩集からは、ひとの内面には宇宙が広がっているということが、改めて強く実感されます。
 

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スーパーカミオカンデ建設時
写真提供 東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設

 
 
さて、今年(2015年)のノーベル物理学賞を梶田隆章東大教授が受賞しました。教授が研究しているのは、目に見えない大きさの「素粒子」であるニュートリノ。でも、宇宙を知るには、そんな極小のニュートリノの研究が欠かせないのだそうです。
 
目に見えないニュートリノをつかまえるために、梶田教授など研究チームが使っている施設が、岐阜県神岡鉱山にある「スーパーカミオカンデ」です。梶田教授は、いままで質量がないと予測されていたニュートリノに質量があることを発見して、ノーベル賞を受賞しました。
 

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梶田隆章『ニュートリノで探る宇宙と素粒子』

でもそもそも、ニュートリノってなんなのか、それが宇宙とどう関係しているのでしょうか? 無限に大きく思える宇宙の話が超ミクロの世界と結びつくのが不思議です。ぜひデヴィッド・ボウイさんにお出まし願いたいところです。
 
そんなみなさんのために、デヴィッド・ボウイさんではなく、梶田教授みずから筆を執って、ニュートリノを解説してくださいました。『ニュートリノで探る宇宙と素粒子』がその本です。梶田教授初めての一般向けの解説書、ぜひお手にとってみてください。
 

目に見えない大きさの「素粒子」と宇宙の深遠な関係を紐解く

 

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荒舩良孝『5つの謎からわかる宇宙』

梶田教授と同じノーベル物理学賞を2013年に受賞したのが、ヒッグス粒子の存在を予言したピーター・ヒッグス博士です。ヒッグス粒子、名前だけは聞いたことのあるかたも多いと思います。物質に質量を与える素粒子がヒッグス粒子です。そして、この素粒子、またもや宇宙を研究するには欠かせないものであるとのこと。ヒッグス粒子が存在しなければ、物質が生まれず、ひいてはこの宇宙がいまのようなかたちで存在することもなかったからだそうです。
 
では、素粒子っていくつあるのでしょうか?(みなさんが化学で習った「電子」も素粒子のひとつです) それらは宇宙の成り立ちとどう関係しているのでしょうか? 知りたいかたはぜひ、荒舩良孝さんの『5つの謎からわかる宇宙』を。新書で手軽、講義形式でわかりやすく宇宙科学の最先端を知ることができます。
 
 
#今回ご紹介した本
野尻抱影『野尻抱影 星は周る』
http://www.heibonsha.co.jp/book/b212352.html
 
トレイシー・K・スミス『LIFE ON MARS 火星の生命』
http://www.heibonsha.co.jp/book/b162785.html
 
梶田隆章『ニュートリノで探る宇宙と素粒子』
http://www.heibonsha.co.jp/book/b210462.html
 
荒舩良孝『5つの謎からわかる宇宙』
http://www.heibonsha.co.jp/book/b163656.html