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2015年12月22日は、二十四節気の「冬至」。この日は、柚子湯に入り、かぼちゃを食べて、一年の無病息災を祝う風習があります。1年で最も日が短くなる冬至ですが、実は日の入りが最も早くなるのは12月上旬です。すでに日の入りが遅くなっているのだと考えると、少し気持ちが上向いてくるのは私だけでしょうか。
 
とはいえ、冷え込みはこれからが本番を迎えます。冷たい北風が吹くと、外へ出かけるのがつい億劫になり、家で縮こまっていたくなるもの。こたつなんて出してしまった日には、もう外には出られません。いっそのこと、冬眠してしまいたい…と思うのですが、そうはいかないのが人類の悲しいところです。
 

冬眠するクマというのは、ヒグマやツキノワグマなどの日本でもおなじみの温帯に住むクマに限られます

 
冬眠する動物といえばヘビやカエル、シマリスやクマなどです。冬眠中に心拍数と体温を落とし、消費カロリーを最低限にして、じっと冬をやり過ごします。野生の動物の冬眠、特にクマの冬眠については、今まで謎に包まれていました。まず、クマが冬眠しているところを見つけにくいですし、冬眠中の野生のクマの心拍数や体温などを測定するのは非常に困難であり、危険だからです。しかし、2006年に上野動物園が飼育しているツキノワグマを冬眠させることに成功し、クマの冬眠の様子も少しずつ明らかになってきました。

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ツキノワグマ 撮影:今井明子

 
クマは、すべての種類が冬眠するわけではありません。なぜ動物が冬眠するのかというと、冬になり、エサが十分に取れなくなるからです。ですから、冬のない熱帯に生息するマレーグマや、年中青々と茂るタケやササを食べるジャイアントパンダは冬眠しないのです。意外に思われるかもしれませんが、ホッキョクグマも冬でもアザラシを獲って食べられるため、妊娠したメス以外は冬眠しません。そういうわけで、冬眠するクマというのは、ヒグマやツキノワグマなどの日本でもおなじみの温帯に住むクマに限られるのです。
 
上野動物園では、クマを冬眠させるために、秋にしっかり食べさせて太らせ、冬になるにつれてエサの量を減らしています。秋にしっかり食べないと、冬にほとんど飲まず食わずで眠り続けられませんし、冬にエサが減らないと、わざわざ冬眠しなくても活動していけるからです。
 

気温の変化は冬眠に入るための大切な条件。徐々にエサを減らし、冬眠へ誘います。

クマが冬眠する条件に、日の長さはさほど関係がないようです。しかし、気温の変化は冬眠に入るための大切な条件であることがわかっています。「冬が来た」と思わないと、いつまでたっても冬眠できないんですね。上野動物園では、クマの居住スペースとして野外にある展示用の「展示室」と、屋内の「準備室」、そして実際にクマが冬眠する「冬眠ブース」の3つの部屋を並べて、クマが行き来できるようにしています。
 

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上野公園ではクマが冬眠する木のうろの中を実際に体験できます 撮影:今井明子

冬が近づくと、クマは眠そうな仕草をします。すると、徐々にエサを減らして生活の場を準備室に移し、冬眠できる環境を整えていきます。準備室というのは、屋内ではあるのですが、外と同じ日の長さと気温になるよう照明と空調を調整できるため、クマは屋内にいながら季節の移ろいを実感することができます。準備室に入ったクマは、冬眠ブースと自由に行き来しながら、やがて冬眠に入っていきます。冬眠ブースは木のうろや洞窟などの役割をする真っ暗な部屋で、来園者はのぞき窓やテレビモニターで中の様子を観察できるようになっています。
 
クマの冬眠する時期は、上野動物園ではだいたい12月中旬から3月にかけてです。栄養状態や気温の変化、妊娠の有無など複合的な要素が絡まりあって冬眠するため、冬眠に入る時期や期間はまちまち。冬眠に入ったと思ったらすぐに目覚めてしまうこともあれば、出産したメスは4月末まで冬眠していることもあるのだそうです。
 
なお、上野動物園で冬眠に成功したのは、本州に住むツキノワグマであり、北海道に住むヒグマの冬眠には成功していません。ヒグマにとって東京の冬の気温は高く、冬が来たと認識できないのかもしれません。もし、ヒグマも冬眠させようとすると、北海道の冬の気温を再現できる設備があらたに必要になりそうです。
 

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 では、冬眠中のツキノワグマは、一体どのような状態になるのでしょうか。まずは、睡眠時間が20時間程度になります。意外なことに、ずっと眠っているのではなく、時々起きて歩いたり水を飲んだり、枯草や落ち葉をたまに食べたりするのです。呼吸数や心拍数は通常時の1/5程度にまで落ち込み、体温は通常時よりも数℃程度下がります。シマリスやヤマネなどの冬眠する小動物が、外気温とほとんど変わらない体温にまで下がるのに比べると、さほど体温が落ちないのが特徴です。このようにして、消費カロリーをなるべく抑えて冬眠するのですが、それでも冬眠が終わると体重は2割ほど落ちます。
 

びっくり! クマは冬眠中にわずか300g程度で出産し、木のうろや洞窟の中で子育てをします。

驚きなのが、クマは冬眠しながら出産・授乳するということ。クマの仲間は出産時の赤ちゃんの体重が約300gと、大人の体に比べて非常に小さく、寝ながらでも出産できるくらいお産が軽いのだそうです。寝ながら出産できるだなんて、なんともうらやましい! 人間であることが悔やまれます。しかし、小さく産むということは、大きく育つまでに時間がかかり、それまで子どもが危険にさらされやすいということでもあります。そこで、木のうろや洞窟の中で、子どもが大きくなるまで1か月くらい長めに冬眠するというわけなのです。
 
ちなみに、ツキノワグマは夏に交尾し、1~3月ごろに出産しますが、受精卵はすぐ子宮に着床せず、子宮内を漂っています。そして、秋に十分な栄養が摂れなかった場合は着床せずに受精卵が流れてしまうそうです。確かに、冬眠しながら出産・授乳するためには非常にカロリーを使いますから、十分な栄養をため込んでいなければ妊娠できないというのは理にかなっています。実にうまくできていますね。
 

上野公園でも冬眠したクマが出産に成功しています。

上野動物園では、クマが冬眠中に出産することに成功し、その子どものうち一頭は大きく成長しました。しかし、残念ながら冬眠中の出産や子育ての様子が分かる映像の撮影には成功していません。もし、出産や育児の映像を残すことに成功すれば、さらにクマの生態が明らかになるはず。レジャー施設としてだけではなく、研究施設としての顔を持つ上野動物園。これからも目が離せません!
 
 
取材協力先:
(公財)東京動物園協会 恩賜上野動物園 教育普及課 教育普及係 主任(学芸員) 井内岳志さん。