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ひとびとが長年にわたって受け継いだ年中行事、二十四節気、七十二候に眠る豊かな季節の感性

日本に暮らすひとびとが長年にわたって受け継いできた年中行事。クリスマス、バレンタインデーなんていう舶来モノもすっかり日本の年中行事に溶けこんでいますが、改めて見つめなおしてみると、伝統的な年中行事には思いがけない豊かさが眠っていることに驚かされます。たとえば、もうすぐ届く年賀状。せいぜい近代の郵便制度が確立して以降の習慣かと思いきや、一説には平安時代からあったものだということです(年賀状博物館サイトより)
 
そんな季節のうつろいを、日本人は大切にしながら生活してきました。しかし、ライフスタイルの変容にともない、身の周りからどんどん季節感が失われてしまっていることも事実です。それではあまりにもさびしい……。そこで、季節を感じながら暮らすための一助に、とつくられたのがうつくしいくらしかた研究所(電通と平凡社が共同運営)です。「自然に寄り添う」「不便や手間を厭わず、プロセスや姿勢をたいせつにする」「個人の知恵や技を高める」といったことを目指して、ていねいな生活のためのさまざまなヒントを提供しています。
 

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「七十二候」ということばをお聞きになったことのあるかたも多いと思います。春夏秋冬の「四季」だけではなく、かつてひとびとはもっと多くの季節を感じながら生きてきました。それが七十二候です。一年を72にわけるとすると、だいたい5日ごとに新しい「季節」がやってきます。現代人からすると、そんなに敏感に季節の移り変わりが感じられるのかと驚きますが、農作業が生活の中心だったころには、季節のうつろいの情報がいま以上にとても大切なものだったにちがいありません。
 
たとえば、この記事が掲載されるころの七十二候は「乃東至(なつかれくさ しょうず)」。「夏枯草」とも呼ばれるウツボグサがこのころ芽を出すことに由来するそうです。ウツボグサは古くから薬として利用されてきた草であることから重要視されていたことが読みとれます。
 
このように七十二候の名称は、植物や動物の名前を織りこみながら、季節が感じられる短文になっています。ちなみに、夏には「乃東枯(なつかれくさ かるる)」(6月21~25日ごろ)という七十二候もあります。律儀に対になっていることがわかりますね。
 

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うつくしいくらしかた研究所では、七十二候が実感できるアプリを制作しています。名前は「くらしのこよみ」。年中行事だけではなく、季節の野菜や魚、花、俳句などもご紹介しています。巻物風に、横にスクロールして見ていくスタイルも好評で、おかげさまで35万人以上のかたにダウンロードしていただいています。ゆっくりじっくり楽しみたいというかたは、アプリをもとにした書籍『くらしのこよみ』をぜひどうぞ。
 
そして、「くらしのこよみ」で紹介している食材を使ったレシピ本『くらしのこよみ 七十二候の料理帖』もご覧いただくことで、旬の食材の楽しみかたがよりいっそう深まることと思います。
 

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『くらしのこよみ』より、旬の食材

 
さて、季節のうつろいが感じられる本といえば「歳時記」があります。俳句を作るかたが季語を調べるための本ですが、パラパラと眺めるだけでも季節が実感できて、楽しい気分になります。
 

季節のうつろいを感じられるさまざまな『歳時記』

ときには、「夏には食欲不振で体力は減退して疲労も激しく、なおかつ寝苦しい夜の睡眠不足が重なって、昼寝が要求される」(「昼寝」は夏の季語、記述は『ハンディ版 入門歳時記』角川学芸出版より)なんていうちょっと愉快な記述も……。
 

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榎本好宏『季語成り立ち辞典』、コロナ・ブックス『日本の歳時記』、
坪内稔典『四季の名言』

季語をビジュアルで楽しめるのが、コロナ・ブックス『日本の歳時記』です。古今の名作絵画や工芸品とともに味わう季語は、また格別のものがあります。日本の名作美術集としてもおすすめです。「くすだま」がなぜ夏の季語なのかなど、季語のあれこれを深く知りたいかたは、榎本好宏さんの『季語成り立ち辞典』を。
 
最後に、ちょっと異色の歳時記が先ごろ発売されましたので、ご紹介します。著者は、「三月の甘納豆のうふふふふ」「びわ食べて君とつるりんしたいなあ」など、ユーモラスな俳句で知られる俳人の坪内稔典(ねんてん)さん。坪内さんの最新刊『四季の名言』は、古今東西112の言葉を、ネンテンさん流に四季に分類。「月給四十円」(正岡子規)がなぜ秋の名言なんだ、なんていうヤボは言いっこなし、実にユニークな「名言歳時記」です。
 
それではみなさま、どうぞよいお年をお迎えください。
 
 
#今回ご紹介した本/アプリケーション
 
『くらしのこよみ』
http://www.kurashikata.com/
 
うつくしいくらしかた研究所 編『くらしのこよみ 七十二候の料理帖』平凡社
http://www.heibonsha.co.jp/book/b158354.html
 
大野林火監修、俳句文学館編『ハンディ版 入門歳時記』角川学芸出版
http://www.kadokawa.co.jp/product/199999021400/
 
榎本好宏『季語成り立ち辞典』平凡社
http://www.heibonsha.co.jp/book/b177849.html
 
コロナ・ブックス編集部『日本の歳時記』平凡社
http://www.heibonsha.co.jp/book/b159697.html
 
坪内稔典『四季の名言』平凡社
http://www.heibonsha.co.jp/book/b212346.html