夜の窓がもつ、昼の窓とは異なる働き

窓は通常、採光や眺望、通風・換気など室内環境を改善するために設置される。昼間は太陽光を透過するか反射するため、外部から部屋の内部を窺うことはできない。しかし夜間は、内外の照度の優劣が逆転する。このため部屋の内部の光を外部に対して発するようになるのだ。光を媒介として、建物内部の様子を外部にいる人達に伝える働きを持つようになる。夜間に窓の外部に対して働きかけるこうした効果は、商業施設の広告手段として活用されることはあっても、その他の効果について明確にはされてこなかった。
 
本稿では、窓を通して屋外に発せられる光、すなわち「窓明かり」に着目する。特に意図的に外部に見せようとはしていない住宅を取り上げる。窓明りの点灯状況の実態を調査するとともに、窓の明かりが外部の歩行者や近隣住民に与える心理的な影響を調べてみる。
 

窓明かりが外部に与える5つの効果

夜の窓は、外にいる人達にどのような影響を与えているのだろうか。これを調べるため、研究室全員で首都圏の住宅街、商業地域、オフィス街において、夜間の窓を観察するフィールドワークを行った。そして窓が外部に対してどのような効果を与えうるのかについてディスカッションした。各自が挙げた項目を整理したものが図1である。

図1 窓明りが外部に対して与える効果

図1 窓明りが外部に対して与える効果

 
結果として、窓明かりの効果は大きく5つにまとめられた。室内に明かりが灯り、窓を通して外部に漏れ出ることの心理的効果として、街路空間に賑やかさや温かみをもたらすなど「①街路景観」に関わるもの、人の気配が外部に表出することで歩行者に安心感を与えたり犯罪の抑止に寄与したりするなど「②安心・安全」に関わるもの、内部のディスプレイを外部に見せることで「③広告」に関わるもの、内部での用途や行為を推察するきっかけを与える「④内部行為のイメージ」に関わるもの、居住者のタイプや住民同士の関わりの強さを推察する「⑤居住者のイメージ」に関わるものだ。
 

7,125個の窓の大きさ、明るさ、光色、内部の見通しを調べる―窓明かりの実態調査

住宅街にはどのくらいの窓明かりが灯っているのか、どのような窓明かりがあるのかについては、誰も調べたことはなかった。そこで、まず夜間の住宅街における窓の点灯状況を把握するため、2015年5月から8月にかけ、首都圏の89の街路を対象として実態調査を行った。街路に面している建物の全ての窓を対象に、窓の大きさと窓明かりの状態(明るさ、光色、内部の見通し)を調査した。窓明かりの数は時間帯によっても異なるので、最も灯っている数の多い時間帯(20時から22時)を選んで調査した。

表1 住宅街の窓明かり実態調査

表1 住宅街の窓明かり実態調査

 
表1に調査した窓明かりの状況を示す。調査した窓は合計7,125個となった。道路に面する窓全体の約1/3(2,287個)の窓明かりが確認された。独立住宅と集合住宅は同程度(約30%)、オフィス、商業施設はやや高くなっていた(約40%)。ただし、これは最も点灯率の高い時間帯のデータなので、通常はもう少し低いものと思われる。
 
暖色光と白色光の窓明かりは同程度であり、約2/3の窓明かりは内部を少しだけ、あるいは全体を見通すことができたが、約1/3は内部は全く見通すことができなかった。
 

 

窓の位置と光色、内部の見通しの組み合わせで、心理的な効果はどう変わるのか―縮尺模型を用いた窓明かりの心理実験

窓明かりの実態調査から、住宅街では、窓明かりの位置や光色や見通しが、外部にいる人への心理状態を左右しやすいだろうことが予測できた。特に戸建住宅の1階の窓明かりは外部の人に対して強い影響を与えそうだ。しかし、街路灯の明るさや路上の人物など他の要因によって左右される部分も大きいので、窓明かり単独の影響を導き出すのは難しい。そこで次に、窓明かりの条件だけを変えた実験を行うことにした。

図2 窓明かりの縮尺模型と実験条件

窓明かりの縮尺模型
実験条件

1/50の住宅街の模型を作成し、個々の室内の照明状況を設定できるようにした。一軒の住宅の窓明かりの状態を、窓の位置(1階・2階)、光色(暖色・白色)、内部の見通し(見える・見えない)で操作し、この建物が外部に対して与える効果を評価する実験を行った。
 
評価項目は、路上の歩行者に与える心理効果5項目、内部での行為のイメージ3項目、住民のイメージ3項目の計11項目。実験条件は上記の3因子(窓の位置、光色、内部の見通し)のパターン2水準ずつ掛け合わせた計8条件である。50名の被験者に、各々の条件について模型を三方向から撮影した画像を画面上に提示し、評価してもらった。
 
3因子(窓の位置、光色、内部の見通し)の独立した影響と組み合わせの影響をみるため、表3にこの実験を元にして実施した三元配置分散分析結果を示す(pの値は小さいほどより一貫した効果が出たことを意味する)。窓の位置・光色・内部への見通しは、ほぼすべての項目で影響があることがわかった。つまり、1階、暖色、内部が見通せる窓明かりが、全体的に路上にいる人に対する様々な効果を高めているのである。また、窓明かりの位置と光色は、内部での行為のイメージに影響を与えている。例えば一階の窓明りが、食事や団らん中であることを連想させ、2階の窓明りが、勉強・仕事、就寝準備中であることを連想させる。

表2 三元配置分散分析結果

表2 三元配置分散分析結果

 
交互作用、つまり3因子の組み合わせによる相乗効果は、窓の位置と光色のみ、生まれることが分かった。たとえば歩行者への効果などは一階に暖色系の光が灯ることで評価が格段に上昇する。逆に二階に暖色系の光が灯れば、就寝の準備中であるというイメージが強くなる。またゴミ捨て抑止は、光色の単独効果は確認されなかったが、一階と結びつくことで効果を発揮することが分かった。

 

街に豊かな表情を与える窓明かり、その効果をどう活かすか

夜間の窓は、光の透過する方向が昼間とは逆転し、内部の様々な情報を外部に伝える機能を持つ。本稿では主に住宅の窓明りを対象として、夜間に点灯している実態を把握し、窓の位置・光色・内部への見通しなどが持つ心理的効果について、実験をもとに把握した。
 
この調査の結果から、窓明かりが夜間の街路の安心を高め、景観的な魅力を高め、住民の個性の表出することに寄与していることが、改めて示されたと言えるだろう。窓が外部に対して持つ効果は、住宅街の防犯性能の向上、地域のコミュニケーションの誘導、温かみのある景観の形成などに活かせるのではないだろうか。
 
ところで窓明かりが様々な表情を持ち、同じように見えても一つ一つ異なるのはなぜだろうか。
それは、内部の空間の状況や使われ方が部屋ごとに異なるからである。
 
個々の住宅内部で展開される様々な行為やインテリアのありようが外部に対して緩やかに表出することは、街の景観を豊かで奥深いものにしていく。窓の明かりは、微妙かもしれないけれど、一軒一軒異なるのである。窓明かりは、そのような豊かな多様性を街の表情に与えることに、人知れず寄与してきたのだ。
 
 
*本稿での調査と実験は、YKK AP株式会社 窓研究所が主催する研究活動「窓学」として行われました。