リーマンショックの元凶となったアメリカのサブプライムローン危機。低所得者向けのの住宅ローン(未払い、バブル崩壊)が引き起こしたのは、世界の経済危機だけでなく「住む」ことへの問題意識の目覚めでした。家を失うことは自分の歴史や記憶までもなくすことなのだろうか? いやそれはただの箱でしかないから、そんなことは考えなくていいーーどちらなのでしょうか?

 
ラミン・バーラミ監督の『ドリームホーム 99%を操る男たち』が描くのは、サブプライムで職も住居も失った若者が、アメリカンドリーム(強いものが勝ち残る)の光と影をさまよう物語です。

 

住宅ローンを抱えながら大工として生計を立てている、主人公デニス(アンドリュー・ガーフィールド)。しかし大不況のあおりを受けてローンを滞納、ある日突然、自宅の明け渡しの強制執行が行われてしまいます。同居している母親と小学生の息子とともに、路上に放り出され、その日から同様の境遇の人々が集まるモーテル暮らしがはじまります。

STANDARD(MICシリーズ)

 

必死に職探しを行うデニスを救ったのは、皮肉なことに自宅を奪った不動産ブローカーのリック(マイケル・シャノン)でした。デニスはすぐに住宅差し押さえのノウハウを理解し、リックの右腕へと成長していきます。それは、彼自身が自分と同じ借金を抱えた貧乏な人々を、さらなる苦境に追い込むことを意味するのです。彼にとって最も大切な家族=家を取り戻すために、99%の敗者を裏切っていくデニス。隣人の不幸が自らの成功であることに、しだいに生活のバランスを崩していきます。

 
本作の根底に流れる、現代社会における「家」の意味への問いかけ。親や兄弟、子どもたち、愛する者たちを守る場所、つまり「家族」そのものである、という古くからずっとある考えを支持しながらも、一方ではただの箱に過ぎないというシニカルな視点も、本作は提示します。
 

いま日本では、ミニマリストと呼ばれる「持たない生き方」をする人たちが出てきました。部屋のなかにはラップトップパソコンのみ、という空っぽのスペースでの生活です。断捨離とも違う、モノや家に意味を見出さないライフスタイルです。一人暮らしだけでなく、家族という単位でもミニマリストを指向する人が増えているようです。
 

かつて家はモノではなく、幸せや成功の象徴でもありました。そしてなにより家族そのものでした。しかし、ミニマリストは記憶とモノは切り離し、データとしてアーカイブあるいはアップデートすることを選びます。
 
東日本大震災では、津波や浸水により汚れたり破損した紙焼きの写真やアルバムを、探し求める被災者が数多くいました。紙焼き写真が心のよりどころとなったのです。直接手で触れた感覚は心と結びつき、その感触は記憶となって残り続けていたのです。
 
家はただの箱なのか? あるいはそれ以上の何かであるのか? 映画を見終わった後、自分の部屋を改めて眺め直すことになるでしょう。

 
 

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■『ドリームホーム 99%を操る男たち』
1月30日(土)
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開!
配給:アルバトロス・フィルム
©2014 99 Homes Productions LLC All Rights Reserved
 
公式サイト:http://dreamhome99-movie.com

 
 
文:和坂康雄