その土地ならではの冬のイルミネーションを

冬の街は、建物が青白くライトアップされたり、樹木が電飾で美しく彩られたりすることが多くあります(図1)。近年は映像を投影するプロジェクションマッピングも活用されるようになりました。しかしそうしたイルミネーションは、プログラムされた人工的な演出がほとんどです。光が点滅したり光色が変化したりしたとしても、周りの風景からは独立しています。どんな施設も、ある土地に立地するもので、そこにはその土地ならではの空気の温かさや風や音などがあるはずです。しかしイルミネーションはこれまで、そうした環境とつながりを持つものではありませんでした。
 

図1 東京都内を代表するカレッタ汐留のイルミネーション

図1 東京都内を代表するカレッタ汐留のイルミネーション

様々な人が集う商業施設のイルミネーションではもちろん、美しくきらびやかな光をつくることが重要です。では、その光を見たり感じたりするだけでなく、光を通して周りの環境をも同時に心地よく感じられるようなことはできないでしょうか。
 
私たちの研究室では、2015年に約30年に及んだ地区再整備計画が完成した二子玉川ライズをフィールドとして、自然環境の特徴を光を用いて描写することに取り組みました。完全にコントロールした光ではなく、環境と連携を持たせた光であると、ある場所に訪れたという体験がより強くなるのではと考えたのです。
 

二子玉川ライズの「水と緑と光」を利用する

二子玉川ライズは、多摩川と国分寺崖線という二つの豊かな自然環境に挟まれた場所に立地する、商業・オフィス・住宅の複合用途施設です(図2)。3万平米以上もある広大な敷地では、「水と緑と光」が調和した街づくりをテーマに、ビオトープなどのルーフガーデンや多彩な樹木が設置されています。
 

図2 二子玉川ライズの立地

図2 二子玉川ライズの立地

私たちの研究では、この中で、二子玉川駅と二子玉川公園を結ぶ歩行者専用通路の「リボンストリート」を対象にしました。リボンストリートは2階レベルにあって、多摩川の形を思わせるように湾曲し、3つの植栽帯が形成されています。また途中で3階レベルのブリッジも横切っています。
 
川の近くにありながら、リボンストリートからは建物に遮られて、多摩川を直接目にすることができません。そばにある川の存在を感じにくくなっているのです。
 

図3 環境演出の考え方

図3 環境演出の考え方

二子玉川は、開けた土地で太陽光が降り注ぎます。しかしその一方で、多摩川や近隣の高層ビルによって時折強い風を発生し、それが名物の一つとなっています。この風の強さはどちらかというと嫌われがちで、住民にはあまり関心を持たれません。
 
私たちは、逆にこの風を活用することにしました。そして「風」と「水」と「緑」が二子玉川の環境的な特徴だと考え、光の「揺らぎ」でこれらを表現しようと試みたのです。

 

風や川の流れをイメージさせる 環境演出の考え方

図3に環境演出の考え方を示しています。まずリボンストリートの路面は、多摩川の流れをイメージして曲線を描くように青色の光で染めることにしました。青くするための取り付ける位置を不規則にすることで、自然の川の流れをイメージしやすくしています。

 

図4 三種類の揺らぐ反射板

図4 三種類の揺らぐ反射板

そして樹木には、風に揺らぎながら光を反射する装置を取り付けることを考えました。光を虹色に反射させるフォログラムシートと、透過・屈折・反射するクリスタルガラスと、鏡面反射する金属の輪とミラー塩化ビニールの三種類の素材を組み合わせることにしたのです(図4)。一つ一つの反射板は大きくはなく、樹木にさりげなく溶け込むようにしています。風で樹木が揺れ動くと反射板も揺れ動き、樹木全体がきらきらしているように見えます。昼間は太陽光を、夜間は電飾やスポットライトや店舗の灯りを反射し、路面や壁面などに投影させようとしました。風の強さに対応して反射光が揺れ動くことで、風や川の流れをイメージできるように考えました。
 

図5 波紋投影装置

図5 波紋投影装置

3階を結ぶブリッジには水の波形を描写することを考えました。水を張った透明なプラスチック容器を下側からスポットライトで投光することで揺らぎを投影するのです(図5)。容器内に浮き玉を入れることでわずかな風に反応し、波紋を発生させやすくなるようにしました。この装置は、風が通りやすい場所に設置しています。

 

風に揺らぐイルミネーション

図6 現場での揺らぎの確認実験

図6 現場での揺らぎの確認実験

こうした装置の試作品をつくって、現場に設置して、風に反応する頻度や様子を確認しました(図6)。そして設置する大きさや数や位置を検討していったのです。最終的にリボンストリートの3つの樹木帯と大階段と2つのブリッジに装飾を施しました。全体で、青色路面光が42台、反射板が2,000枚、波紋投影機を2台設置することになりました。冬季環境演出は2015年11月14日~2016年2月29日までの3カ月半に渡って実施されました。図7は実施中の風景です。
 
期間中にリボンストリートを訪れた人からは次のような感想がありました。
 

図7 実施風景

図7 実施風景

「風を活用するアイデアが面白い。」
「揺れる緑が魅力的に感じられる。」
「装飾は風に反応して同じ動きを繰り返さず、見ていて飽きない。」
「光が明るすぎず暗すぎないので、街に溶け込んでいるようだ。」
「昼間は太陽の光も反射していてキレイ。」
「装飾と葉の状態が良く見え、季節が感じられる。」
 

一方で、「見た目が地味。」「風が吹かないと揺らぎが感じられません。」「装飾の意図が分かりにくい。」などの課題も出されました。光の反射は通常のイルミネーションと比べると少し地味で、分かりにくいという問題もあったかもしれません。

 

揺らぐ光づくりのワークショップ

図8 ワークショップ「花筏イルミネーション」

図8 ワークショップ「花筏イルミネーション」

私たちの計画したこの揺らぐ光の演出に、街の人にも参加してもらおうと思いました。そこで、冬季環境演出の期間中に、二子玉川ライズを訪れる人々に光の作品を制作してもらい、リボンストリートに設置してもらうワークショップ「花筏イルミネーション」を開催しました。メッシュ状の布、砲弾型LEDとボタン電池、強力なマグネットを組み合わせて、風で揺らぐ「光る花」を制作してもらうというものです。LEDは多摩川をイメージして青と白の2色に限定しました。各自でつくった「光る花」を、リボンストリートの手摺や看板や支柱など、マグネットが接着する様々な金属部位に貼り付けていきます(図8)。素材の色選びや貼付ける場所を参加者に自由に選んでもらうことで、自らの作品が環境演出の一部になるように考えました。
 
ワークショップは2015年12月4~6日の16時~21時に実施しました。3日間で合計796人が参加し、光る花は合計1,700個の花がつくられました。一つ一つの光る花には大きなインパクトがあるわけではありませんが、小さな光る花が連なることで、その違いはより際立って美しく見えることになりました。

花筏イルミネーション

 
ワークショップの参加者からは次のような感想がありました。
 
「光る花を取り付けることでこの場所が魅力的になった。」
「このイベントは、街を明るくするだけでなく、親子関係までをも明るく照らすということに気が付かせてくれました。」
「一人でつくりのではなく、みんなと協力してイルミネーションをつくり上げることで、一体感を感じました。」
「二子玉川ライズにより愛着が湧いた気がします。」
「どこに光る花を設置するかを考えることが楽しかったです。」
 
たくさんの光る花で彩られた二子玉川ライズは、この街に訪れた人々がつくりだした温かみのある空間になっていました。単にあかりをつくるだけでなく、それをリボンストリート設置することで、環境演出への参加を実感したり、場所に対する関心や愛着が増したりしたという効果があったのです。
 

 

街をあらわすあかりで街の記憶を

私たちが取り組んだ環境演出は、プログラムされたイルミネーションではないので、華美な演出ではなく、いつもきらめきや揺らぎが発生するというわけではありません。しかし、天気がよく日光が差しているときや、強い風が発生しているときは、様々な反射と揺らぎが起こります。ある瞬間に樹木や葉と光の美しさを際立たせることができるのです。こうした街と天気に特有の自然環境を体感すること、その場所に訪れたということを印象づけるのではないでしょうか。
 
人にはコントロールできない自然の動きに呼応する装置を季節の演出に活用することで、街や土地に対する愛着の向上にもつながっていくのではないかと思います。

花筏イルミネーション

 
このプロジェクトは、二子玉川ライズと東京都市大学との産学連携活動として行われ、株式会社東急エージェンシーと茂泉ユミさん(P’s OFFICE)との協同で企画・制作しました。
 
 
二子玉川ライズ 冬季環境演出
期間:~2016年2月29日(月)
場所:二子玉川ライズ リボンストリート