Image by TAKUMA KIMURACC BY-SA
Image by TAKUMA KIMURA(CC BY-SA)

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2016年の7月22日は二十四節気の「大暑」にあたります。いよいよ夏休みが始まり、暑さも本番を迎えます。「夏は夜」と清少納言は枕草子にしたためましたが、生ぬるい夏の宵の口にお出かけすると、なんだか心が躍るものです。夏の夜に光るものといえば、ホタル。前回の「星」に引き続き、小倉明彦先生にホタルについての豆知識を教わりました。
 
ホタルの本格シーズンは、実は少し前のタイミングです。本州では梅雨入り直前や梅雨の晴れ間が一番の見頃です。最近ではビアガーデンなどでホタルを放流する演出も行われていますが、こちらは、あらかじめ飼育されていたホタルであることが多いようです。
 
小倉先生はドイツの、ルール側の河畔にある大学に留学中、ホタルが大量に群がる木を見ました。ホタルの光は点滅するので、集団になると木のかたちの緑色の光が点滅して見えたのだそうです。それをみて、日本人などの東洋系の学生は美しいと感じたのですが、地元の人は気味悪がっていたのだとか。ホタルの光の感じ方には国民性があるんですね。
 

科学の世界で重宝されるホタルの光

ホタルは自分で居どころを「明示して」いるので、簡単につかまえることができ、手の上で発光を観察することもできます。すると、発光しているのに熱くないことがわかります。実は、白熱電球では電気のエネルギーのほとんどが熱になり、たったの10%しか光になりません。LEDでも光になるエネルギーはせいぜい20%程度です。それに比べると、ホタルは、測り方にもよりますが、エネルギー源の80%以上が光になります。だから、熱くならないのです。

Image by Amanjeev(CC BY-SA)

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そのエネルギー源はATPという分子です。ホタルは、「ルシフェリン」という分子を、「ルシフェラーゼ」という酵素とATPと酸素を使って分解しながら発光しているのです。ルシフェリンとルシフェラーゼを合成して照明を作れば、きっと超省エネなあかりができるはずなのですが、ひとつひとつの光が弱いので、ちょっと実用化は難しそうです。
 
しかし、科学の研究の場で、ホタルの発光物質は活用されています。先ほどもお伝えした通り、ホタルの発光物質であるルシフェリンは、発光するときにATPを必要とします。ということは、発光するかどうかでATPがあるかどうかがわかるのです。
 
最近では、体内時計の秘密を解き明かすときにも、ルシフェリンとルシフェラーゼが使われました。調べたいタンパク質の遺伝子にルシフェラーゼの遺伝子をつなげておくと、そのタンパク質が作られるときに、一緒にルシフェラーゼもできますから細胞が光って見えます。「今、目的のタンパク質ができましたよ」ということが、目で見てわかるのです。つまり、光の周期を調べれば、タンパク質が作られる周期もわかるというわけです。今この方法は、体内時計研究にかぎらず、色々な研究に応用されています。
 
このように、実験室でルシフェリンを光らせることはできるのですが、このときの光は点滅しません。一方、ホタルは光を点滅させることで恋を語らっています。ホタルの光はどうやって点滅するのでしょうか。これはおそらく、空気(酸素)の送り方を調節しているのだろうという考えが有力です。
 
上に紹介したように、ルシフェリンが発光するためには、酸素の存在が不可欠です。だからホタルが発光器に酸素を送れば光り、止めると消えるはずです。いわば息こらえをくりかえして点滅しているというわけです。しかし、具体的にどういった方法で発光器に送る空気量を調整しているのかなど、まだはっきりとはわかっていません。

ホタル狩りに出かけてみよう

ホタルの生息する場所は、清流にかぎるというイメージが強いのではないでしょうか。しかし、エサとなるカワニナという巻貝さえいれば、少々水が濁っていてもホタルは飛ぶようです。確かに田んぼにもホタルが多く見られますが、田んぼの水も濁っていてきれいとはいいがたいですね。

 
また、ヒメボタルという種類のホタルは、必ずしも水を必要としないので、林の中や寺社の境内などでも確認できます。ヒメボタルは、ゲンジボタルやヘイケボタルのように「ピカーッ、ピカーッ」と光るのではなく、「ポポポポポ…」と小刻みに弱い光を点滅させます。ただ、たとえ街の中や境内でヒメボタルが飛んでいても、街灯が明るくて気づかないかもしれませんね。
 
すでに本州のホタルのシーズンは終盤に近いですが、北のほうではまだ見られるかもしれません。風のない生暖かい夜の7~9時ごろがホタルのピーク。涼を感じに出かけてみてはいかがでしょうか。
 
 
取材協力先:
小倉明彦
1951年東京都生まれ。大阪大学大学院生命機能研究科教授。1977年東京大学理学部大学院修士課程動物学専攻修了。1977~1979年西ドイツ(当時)ルール大学生物学部研究員、1980年三菱化成生命科学研究所を経て1993年より現職。理学博士。著書に『実況・料理生物学』(大阪大学出版会)、『記憶の細胞生物学』(共著、朝倉書店)などがある。