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iPhone/Androidが隆盛を極める前、21世紀の初頭は、PalmやBlackberry、Windows Mobileがメインストリームに乗ろうと主に海の向こうで激しく戦っていました。その前にはジョン・スカリー氏の造語とされるPDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)というカテゴリーで、Apple、カシオ、シャープやベンチャーがしのぎを削っていました。

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「夢のPDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)」に進化しつつあるスマートフォン

PDAという用語は日本語に訳しにくいので、携帯情報端末と訳されていました。この訳語には、「パーソナル」は少し残っていますが、「アシスタント」というニュアンスはまったく残っていません。当時は音声認識と音声合成の精度が低く、利用者とPDAとのやり取り(インタラクション)は、ボタンとテキストでした。PalmはGraffiti(直訳すると「落書き」)という特殊な文字入力方法を「発明」してくれていたので、AはΛを左下から上、右下へ進めるように、Bはβを同じく左下からスタイラスで液晶画面に描くと文字として認識してくれました。
 
PDAは、個人の秘書のように、スケジュールやコンタクト先などを管理し、仕事や生活に必要な最新のニュースを集め、調べ物をしたり、先方とのスケジュール調整をしたり、行先の地図を表示したりして、利用者をアシストしてくれるように進化すると期待されていました。ストレスの多い現代の暮らしで、何もかも自分でやることはできませんから、メモリ(記憶)もプロセッサ(処理)も部分的に自分の外に置くことができれば大変助かります。
 
AI(人工知能)のお蔭で、スマートフォンがかつて多くの人が夢見た「PDA」に進化しつつあります。Googleを起動したりiPhoneに何か調べさせるため、機械に話しかける機会が増えています。スマートフォンはさまざまなアプリやクラウドとの連携で、仕事と遊びと暮らしをアシストしてくれています。やがて、Macy’sの店内案内は、テキストではなく、音声になるでしょう。現在は英語とスペイン語にのみ対応とのことですが、いつかは日本語に対応してくれるようになるかも知れません。
 
これを実際にデパートの店員が行おうとすると、少なくとも持ち場の周囲のトイレやエレベータの場所、防火設備や避難路、さらにはていねいな言葉などを教育しなければならず、海外からの観光客を相手にするならば、外国語の心得も必要ですから、人件費は高くなります。
 
店舗側には、従業員に一日に何度もトイレの質問への対応をやらせたくない、時給がもったいないし、従業員のやる気にも影響してしまうという事情もさることながら、実際の店舗に来てもらうため、スマートフォンに最新の技術を載せて、人々の興味を惹かなければならないという事情もあるようです。
 
Walmartは自前のモバイル・ペイメント「Walmart Pay」を自社アプリに搭載していますし、Targetも「Cartwheel」というアプリで店内案内やクーポンの提供を行っています。Walmartはさらに進んで、ショッピングカートを自律走行させるトライアルも行っています。買い物客に新しい経験を提供して、来店と購買を促そうという”魂胆”です。
消費者がスマートフォンを持参してくれれば、お客自らにタグのバーコードを読んでもらうことで商品情報の詳細を示したり、値札をつけない商品を並べることもできます。消費者の店内での動線も分析できます。
 

人工知能による「接客」の合理性

日本にも外国人観光客が増えて、交通機関や店舗、飲食店で外国語の対応が当然のように求められるようになってきました。時を同じくして、AIや自動翻訳の技術が進み、テキスト(文字)だけでなく音声の自動通訳も徐々に浸透し始めています。
 
自動販売機やATMが「喋った」と話題になった時代もあるのですが、今やコールセンターの通話の相手が機械かも知れない時代になりました。
 
トイレの場所からおすすめ商品の詳細な仕様や流行トレンドまで熟知した、愛想のいい店員を長期間雇って、フロアの各所に配するよりも、遠隔地にいるWatsonが無線通信でトイレの場所を教えた方が、中長期的に店舗側には安上がりになるでしょう。百貨店の場合、浮いたお金が値引きに直接つながるとは考えにくいですが、何らかのサービスに転化される可能性はあります。
 
実際の店員が対応するよりも、機械の方が「よくある質問」についての知見を蓄えることも得意そうです。高齢になると、毎日、よく歩いて、人と会話することが重要だと言われています。味気ない気もしますが、ポケモンやポケストップを探しながらデパートへ行って、広い店内を歩きながら、人工知能と会話するのが、近い将来の高齢者のルーティンということになるのかも知れません。
 
 
<参照情報>
Macy’s Pilots IBM’s Watson In Partnership With Satisfi For In-Store, Personalized Shopping Companion
MACY’S PILOTS IBM’S WATSON IN PARTNERSHIP WITH SATISFI FOR IN-STORE, PERSONALIZED SHOPPING COMPANION