昭和の中頃に中学や高校、大学の運動部に所属していた方であれば通用する、いわゆる「あるあるネタ」ですが、水飲みを我慢しての長時間運動、連日の反復練習、無理な負荷、先輩への服従などで根性と従順さを育むことが強くなるための道とされた時代は、遠く去りました。もちろん、今でも激しい練習は不可欠とされていますが、筋肉や運動能力に対する研究と理解が深まり、栄養学も援用しながら、アスリートたちの身体能力を高めています。また、メンタル・トレーニングも広く採用されていて、高校生の部活動でも試合前にイメージ・トレーニングをする姿が見られるようになってきました。

 

サッカーやバレーボール、フットボール、バスケットボールなどのチームスポーツでは、プレーヤーたちによる戦術的な動きが不可欠です。一緒に練習して、コーチにホワイトボードや声で指導してもらい、「身体で覚える」のが一般的な練習方法と思われますが、ドイツではスポーツサイエンティストと認知心理学者が共同で、サッカーをプレーするアスリート達が一連の行動をどのように記憶に格納し、引き出しているかを調べています。神経認知と行動−生体力学研究グループです。

 

今回ご紹介するのは、ドイツのビーレフェルト大学CITEC(Cluster of Excellence Cognitive Interaction Technology)が開発したサッカー選手のメンタル・トレーニング。

「勝つためにはどうすれば良いのか」を考えたとき、身体能力とそのトレーニング方法で大きく差をつけることが難しいなら、プレーヤーたちが戦術を共有し実行に移すことができるチームが有利と考えられます。ところが人間は戦術的な動きをきちんと記憶することは難しいため、専門家がここを助けようという試みのようです。

 

方法としては、5対5のフットサルをインドアで実践し、これを写真と文章で記録して、プレーヤーたちに見せるという比較的単純なトレーニングで、ジョイント・アクション・イメージというテクニック名が付けられています。

 

被験者(=サッカー選手)にはフットサルのシーン、例えば、カウンター・アタックすべき場面の写真が提示されます。そして、写真に写っているプレーヤーの1人に自分を投影するよう促されます。そして、試験者(=研究者)から説明を受けます。例えば、「あなたはフィールドの右サイドでボールをインターセプトしました。目の前には相手チームの選手がいて、左右には味方がいます」などの説明に続いて、「あなた」が行うべき戦術的な動きの説明を受けます。続いて、その状況と動きを頭の中で10回想像することを求められるそうです。戦術はゲームメイキング、カウンターアタック、ディヘンスへの転換、プレスの4種類。

 

これをさまざまな場面について、週に2回、4週間に渡って行い、家でもスクリプト(台本)を使って週に1回、メンタル修行を行います。

 

効果測定は、被験者(=選手)に別々の写真2枚を見せて、この2つの状況である一つの戦術(4つのうちの1つ)を採用してよいかどうかを瞬時に判断させることで行ったようです。

 

予想通り結果はポジティブで、メンタル・トレーンングを受けた選手の戦術判断能力は向上したとか。ゆくゆくは写真と文章を使うという”前時代的”な方法ではなく、VRゴーグルを装着した選手たちが戦術を頭に入れている光景が見られるようになるかも知れません。

 

参考情報
Mental Training for Soccer Tactics