High-Low Split: Divergent Cognitive Construal Levels Triggered by Digital and Non-digital Platforms“という論文があります。ダートマス大学のTiltfactorラボ(ニューハンプシャー州ハノーバー)が行った研究で、難しい標題がついていますが、要するに、文章などの情報をデジタル(タブレットやノートPC)で読んだ場合と、デジタルじゃないもの(紙)で読んだ場合の「認知」の違いについての実証研究です。
 

 
詳細は省きますが、デジタル媒体と非デジタル媒体には相対的に

  • デジタル : 具体的詳細に目が向く
  • 非デジタル: 情報を抽象化して抽出しやすい

という違いがあるようです。同じ内容に触れても、プラットフォームによって「解釈レベル(construal level)」が違うとのこと。実験には文学作品だけでなく、商品説明なども使われたようです。
 
当初、電子書籍にはいろいろ否定的な意見がありました。マーカーで印もつけられない、付箋も貼れない、メモを書き込めない、ページの隅を折って目印にもできない、全体のどの辺まで読み進めたか分かりにくい、押し花も作れないし、枕代わりにもできない、などなど。
 
そうは言っても口コミによる評価がモノを言う時代。Kindleなども発売時から現在に至るまでに、利用者、つまり電子的な書籍や雑誌の読者の「読む」経験を豊かにすべく、さまざまな改良が行われました。炎天下でも画面が見えますし、洋書を読む途中で分からない単語は辞書で調べられますし、何百冊だって軽く持ち運べますし、資源ごみも増えませんし、書架を占領することもありません。以前に比べると、電車の中で、タブレットやスマートフォンで何やら読んでいる人を見かける機会も増えたように思います。
 
一方、やはりアンチ電子書籍派の人を無視することもできないでしょう。お試しで電子書籍やタブレットでいつもは文庫本やペーパーバックで読んでいる好きな作家の新作などを読んでも、なんとなく分かりにくい、感触が違うといった”違和感”を覚える人も多いようなのです。
 
筆者の周囲には同年代(つまり、何年か後には還暦)の人が多いので、こうした感想は年齢的なもの、というよりもデジタル移民(人生の中盤以降にデジタル生活に入った年代)ゆえの、「慣れ」の問題のようにも思えました。せっかく電子ファイルで情報をゲットしても、わざわざプリントアウトして、紙で読む方が楽と言い張る輩が大勢いる年代です。
 
ところが上記の論文の実験参加者は300人以上で、年齢は若く、20歳から24歳ということなので、むしろデジタルに慣れている世代と言えそうです。この世代で違いが顕れるということは、何らかの本質的な違いがデジタルと非デジタルの間に存在するということなのでしょう。
 
デジタルは「具体的情報の認知」に、非デジタルは「与えられた情報から抽象化した概念の解釈」に向くということであれば、読もうとする情報の内容とその使い道に応じて、読み手側が使い分けるのが賢い選択なのかも知れません。
 
例えば商品カタログやグルメ情報などは、具体的な商品や飲食店・料理を知るためにタブレットで読み、各社商品の共通項や相違点を把握したり、グルメ情報の提示方法や流行・トレンドなどを読み解きたいときには紙の媒体に触れるといったイメージでしょうか。
 
ただ、今はこの論文くらいしか違いを説明する情報がないので、筆者自身当分の間は「やっぱり紙が好き」くらいの気分で過ごそうと思います。
 
Digital media may be changing how you think