路地はその街と自分の距離感を一気に縮めてくれる存在です。だから、路地での偶然の出会いを求めて、そこに灯る赤提灯に引き寄せられてしまうのでしょう

街を歩いていて、たまたま足を踏み入れた路地で偶然、自分の趣味と合う店に出会えたとき、自分にだけのとっておきの表情を、その街が見せてくれたような気持ちになることはありませんか? まるで、街が特別扱いしてくれたようで、受け入れてくれたことに気分が高揚する瞬間です。やがて自身と街は相思相愛の関係になり、自分のテリトリーが広がっていきます。
 

路地はその街と自分の距離感を一気に縮めてくれる存在です。だから、路地での偶然の出会いを求めて、ついついそこに灯る赤提灯に引き寄せられてしまうのでしょう。
 
近年、路地や横丁と呼ばれる場所の魅力がよく語られるようになってきました。しかし、いくらその場所に魅力を感じていたとしても、どんな時でも路地を選ぶ人はいないでしょう。例えば、コンビニを探しているときに、意図的に路地へ足を踏み入れる人はいないはずです。大通りを歩いているときは大通りなりの店、例えば全国チェーンの店など、一般ニーズの最大公約数的な店を求めているのだと思います。

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路地での自分のお店を見つけられた瞬間、まるでその街が特別扱いしてくれたような気分になります。それが路地や横丁の懐の深さなのかもしれません

店員と客は「演技者」、通行人は「観客」。路地は「劇場」空間に変わる

一方で、路地や横丁を歩くときは、誰もが頻繁に必要とする店というよりは、万人が共感するわけではないけれども、店主の強いこだわりのある「一期一会」を感じさせる店を探し求めているのではないでしょうか。
 

客が欲しいものを「探す」のではなく、店が欲しいものを「提示」してくれるーー人は自分の欲しいものを見つけるために、路地へわざわざ迷いこむのではないのでしょうか

路地では個人経営主が多いこともあって、チェーン店と差別化できている店を多く見つけられます。大通りの店と同じことをやっていては、路地に足を踏み入れてまで買い物をする客はこないはずです。なんらかのこだわりを持つことが路地の店には求められるのです。

 
そう考えると、(買い回る)ショッピング客が路地の入り口に差し掛かったときに、「この路地には他にはない、こだわりを持った店があるのではないか」という期待感が無意識のうちに生まれるのは、当然のことかも知れません。

 
普段、人は街で買い物をするとき、ある程度欲しいものをイメージしているものですが、路地を歩くときは、店の方が「あなたの欲しいものはこれではないか」と提示してくれているように思います。つまり、人は自分の欲しいものを見つけるために、路地へ“わざわざ”迷いこむのではないかと思うのです。
 

横丁へ足を踏み入れた人の多くは、大通りでは見かけない個性的な店を期待しています。横丁には、落語と同じく「八っつあん、熊さん」の存在が不可欠です

路地へ足を踏み入れた人を観察すると、そのことを裏付けるような行動を目にすることができます。横丁を訪れる人の多くは、通りすぎようとしている店の内側を覗き込むかのように見入ります。自分の目当てでないとわかっていても、大通りでは見かけない個性的な店に関心を示しているのです。そんな期待に応えることができる店が多く連なる横丁は、やはり多くの人で賑わっているように思います。

 
通路を隔てる外壁のない、軒先にむき出しの横丁の店にいると、通行人からの視線を意識しながら飲食することになります。そんな店で歓談している客を見ていると、店と通路の間がスクリーン化し、まるでスクリーン越しに店内を見ているような感覚におちいります。路地は、まさに「劇場」というべき空間に変わるのです。
 

毎晩、横丁では、ドラマのワンシーンのごとき人間物語が生まれています

店員と客は「演技者」で、店内の様子に視線を送る通行人は「観客」。店内の客は普通に飲食をしているようで、通行人の視線を感じているために、どこかで“演じている”意識が生まれています。まるで俳優にでもなったかのような錯覚、というと大げさでしょうか。

 
赤提灯の横丁を通るとき、歩くスピードを下げて店内の様子を観察してみませんか。横丁という劇場空間で繰り広げられる、何気ないドラマのワンシーンは、この空間の持つ魅力を知るきっかけとなるはずです。(写真/井上健一郎)
 
 

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