DVD『SMOKE』(販売元: ポニーキャニオン)より

今日はクリスマスイヴ。街はイルミネーションをはじめ、ライトアップされることでしょう。全国津々浦々があかりで灯される今宵、室内で静かに照度を落として長い夜を過ごすひとも多くなってきました。
 
そんなイヴを過ごす皆さんのために、おすすめの映画や本をピックアップしようと思い立ったのですが、実際のところ、あまりに数が多くどの作品を選んでいいやら・・・。そんな時、ふと口をついたのが、このフレーズです。
 
「クリスマスについて、いったい私に何がわかるというのか?」

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DVD『SMOKE』(販売元: ポニーキャニオン)より

 
アメリカの小説家・ポール・オースターによる「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」の一節です。この短編小説は形を変え映画となったため、『スモーク』というタイトルで記憶しているひとも多いかもしれません。ニューヨークのブルックリンを舞台に、虚実が交錯しながらも「与えることと受け取ること」の意味を描き出す、オースターらしい後味を残す佳作です。
 
クリスマスの夜に起こる思いがけない出来事ーー主人公のオーギー・レンが、偶然巡り会わせた盲目の老女と、いつの間にか家族のようなコミュニケーションをとることになっていきます。現実とも空想ともとれる不思議な領域に読者/観る者は引き込まれていくのです。

 
「考えるあかり」での伊藤亜紗さんの記事「見えた記憶がない人と天ぷら定食を食べて、知覚の『編集』を考える」(2015.10.02)には、こうあります。

 

(左)DVD『SMOKE』/販売元: ポニーキャニオン
(右)『スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス』/作・ポール・オースター/訳・柴田元幸/新潮文庫

 
「目の見えない人と話していて一番驚くのは、こうした実在に対する距離感です。実在を確認できないという意味では慎重な行動を求められますが、逆にいえば実在から自由になっているともいえる。(・・・中略)視覚を遮断されると、人はもっと自在に実在物を『編集』しはじめます。とくに見た記憶を持たない人の場合、その編集は極めてラディカル」

 
とすると、盲目の老女の“ラディカルな編集”が、自身でも気がつかないうちにオーギー・レンを巻き込み、クリスマスのマジックをひきよせた、と考えることもできそうです。

 
物語の最終場面、オーギー・レンの奇妙な物語を聞いた友人(冒頭の言葉の主でもある)は、彼にこう伝えます。
 
「あんたもクリスマス・ストーリーを手に入れた、だろ?」
 
クリスマスというのは、誰にとってもストーリーをもたらすものなのかもしれませんね。

 
*「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」の引用文は『スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス』(新潮文庫)より。

 
文:和坂康雄