監督:カリム・アイノズ  ポンピドゥー・センター  ©Ali Olcay Gozkaya

次世代の建築物や部屋などの空間はいかにあるべきかーー「考えるあかり」創刊時、編集部ではそんな問いを設定していました。建築という「ハコ」のなかに「モノ」や「ヒト」がいて、それらの相互作用を効果的にデザインできれば「共感」がうまれ、最終的には希望やチカラを得られるのではないか、と仮定してみたのです。「考えるあかり」のそんなスタート地点を思い起こさせてくれたのが、建物と文化、社会との関係を表現した映画、『もしも建築が話せたら』です。
 
本作は「もしも建物が話せたら、私たちにどのような言葉を語り掛けるのだろうか」をテーマに、ヴィム・ヴェンダース、ロバート・レッドフォードら6人の監督が、それぞれ思い入れのある建築物を選び、その建築物の文化的な背景や意義を描くオムニバス・ドキュメンタリーです。建築物自身が擬人化され、一人称として言葉を発する演出が特徴的です。建築物は心を持った人間のように、建築物自身の内部に集まる人々や構造について独り語りをはじめます。

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監督:マルグレート・オリン オスロ・オペラハウス ©Øystein Mamen

 

登場する建築物は、「ベルリン・フィルハーモニー」(ヴィム・ベンダース)、「ロシア国立図書館」(ミハエル・グラウガー)、「ハルデン刑務所」(マイケル・マドセン)、「ソーク研究所」(ロバート・レッドフォード)、「オスロ・オペラハウス」(マルグレート・オリン)、「ポンピドゥー・センター」(カリム・アイノズ)の6つの公共施設。ベルリンの壁を意識して建てられた「ベルリン・フィルハーモニー」でも明らかのように、建築物には歴史的、政治的、文化的な意味が含まれ、そこを訪れる人々に様々な思いを残していきます。

 
「私はここにある建物、ベルリン・フィルハーモニー。私の向こうはポツダム広場。1963年には何もない土地だった。私は50歳になる。ベルリンの街が私を育てた。私もこの街の成長に役立ったと思いたい。外から見れば私は、それほど大きくない。でも中に入れば広く開かれている。開かれた社会という理想郷が私の中に実現している」(ベルリン・フィルハーモニーが語る言葉/予告編動画を参照)
 

もちろん、この言葉はヴィム・ヴェンダースの思いによるものでしょう。しかし、多くのドイツ人がこの語りに共感するはずです。建築当初は幻想でしかなかったものが、ベルリンの壁崩壊、1990年の東西ドイツ統一へと向かったことのですから。ベルリン・フィルハーモニーの“人格”がそれを招き寄せたかのように感じられたに違いありません。
 

建物に魂はあるか?ーー製作総指揮も務めるヴェンダースはこの問いにこう答えました。「建物にも人格があると思うよ。(建物は)直接でなくても、人間の感覚や感情に何かを訴えかけてきていると思う。さらにどのようにして建物の人格が形成されていったかも追求している。建物を職場として働いている人たちとの相互作用はどのようなものかといった具合にね」。
 
東京オリンピック国立競技場問題がいまだに尾を引く日本。新しく決まったあの建築に「魂」は吹き込まれるのでしょうか? その答えはまだ出ませんが、それは社会とのコミュニケーションのなかにあることを、本作は教えてくれます。

 
 

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■『もしも建物が話せたら』
2016年2月20日(土)渋谷アップリンクほか全国順次公開!
配給:アップリンク
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/tatemono

 
 
文:和坂康雄