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皮膚は紫外線を浴びると日焼けしますし、赤外線にあたれば「温かさ」を感じています。紫外線や赤外線という光を「皮膚は感じている」のです

皮膚が光を感じている、ということは間違いありません。目をつぶった状態で身体に光を当てられても、わたしたちは何も感じないではないか? と反論される方がいらっしゃるかもしれません。しかし皮膚は紫外線を浴びると日焼けしますし、赤外線にあたれば「温かさ」を感じています。つまり紫外線や赤外線という光を「皮膚は感じている」のです。


話を進めるにあたってまずはじめに「感じている」という言葉について考える必要があります。「感じている」は2つの意味を持ちえるからです。「感覚」と「知覚」です。

たとえば唐辛子のソースを皮膚にかけられるとヒリヒリする、といった外部からの刺激に対して作動するチャネル、スイッチのようなものがあります(生物学的には受容体と言います)。そこで作動することを「感覚」と定義します。

感覚が脳に行くと、「いま触られた」「かゆい」「痛い」と認識します。それを「知覚」と呼びます。「感覚」と「知覚」は別のものなのです。

進化生理学者であるニコラス・ハンフリー博士は、くらげのように脳を持たない生き物には知覚はないけれど、感覚はあると語っています。つまり知覚をもつためには脳が必要なのです。

その定義に沿えば、わたしが「皮膚が光を感じている」と言っているのは、知覚を指さないことになります。なぜなら、たとえば目隠しをされて腕に光を当てられても、普通のひとは何も感じないからです。脳が認識しないものは知覚ではありません。しかし感覚として皮膚は光を認識している、という可能性は存在します。

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目の視覚システムとは異なるシステムで光を感じている、感覚として光を皮膚は認識している、という可能性は存在します(写真/© Deyan Georgiev – Fotolia.com)

皮膚は本当に光を感じているのだろうか?

季節性のうつや時差ぼけを治すために、強い光を照射してメラトニンという睡眠のリズムを決めるホルモンバランスを変える、言い換えるとサーカディアンリズム(概日リズム)を整えるという療法があります。これは太陽光を浴びると良いーー目が光を感じて、それが脳に伝わって内分泌系を整えるーーということを前提にしています。

この、光によってサーカディアンリズムを整える療法は、生まれつき目が見えない方、障害がある方にも効果があるという報告があります。視覚関係の研究者の間では、身体の表面かどこかに無意識に光を感じるシステムがあるのではないかと言われてきました。

1998年に、膝の裏側だけに光を照射することでサーカディアンリズムを調節できたという報告が学会誌でなされ話題になりました。しかしその後追試が成功せず、どうもこれは怪しい、ということになり仮説にはいたりませんでした。今後の研究を待ちたいと思います。
 

人間の皮膚は紫外線も赤外線も感じているとすると、皮膚は可視光にたいしてもなんらかの応答をしているのではないでしょうか?

皮膚は本当に光を感じているのでしょうか?

光というのは言うまでもなく、電磁波です。X線やラジオ、テレビ、携帯電話で使われているのと同じ電磁波のひとつです。そのなかで400ナノメートルから700ナノメートルまでの、人間の目に見える光を可視光と言います(1ナノメートルは10億分の1メートル)。400ナノメートルより短い波長の光を紫外線、700ナノメートルより長い波長の光を赤外線と呼んでいます。

それらの領域に線引きしているのは、目の網膜の光感知システム、具体的にはロドプシンやオプシンといったタンパク質が、400ナノメートルから700ナノメートルまでの光で作動することによります。その波長の電磁波が網膜に投影され、電気的信号に変えられて視神経を経て脳に届けられます。

たとえば蝶などの昆虫は紫外線領域まで感知するシステムを持っているので、蝶にとって紫外線は目に見える光であり、赤外線も感知できる蛇にとっては赤外線も可視光なのです。

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赤い光が傷の回復を早くする、青い光がニキビの原因である菌の増殖を防ぐ、という報告もあります
(写真/© schepers_photography- Fotolia.com)

 
最初に言いましたように、人間の皮膚は紫外線も赤外線も感じています。とすると、皮膚は可視光にたいしてもなんらかの応答をしているのではないかと考えるのが当たり前です。もし皮膚が可視光に応答しないならば、網膜とはまったく正反対、つまり400〜700ナノメートルまでのあいだの電磁波にまったく対応しない正反対のシステムがあると仮定せざるを得ません。しかしそれは不合理に思えるのです。

電磁波には様々な連続した波長数がありますが、物理学的に言うならば、そこに線引きがなされているわけはありません。赤外線や紫外線という領域は、人間の網膜の分子構造が決めているだけです。そうすると、皮膚が紫外線より長い波長、赤外線より短い波長の光を感じない、応答しないーーそう考えるのは不自然ではないでしょうか。実際に、赤い光が傷の回復を早くする、青い光がニキビの原因である菌の増殖を防ぐ、という報告もあります。

電磁波、つまり光のエネルギーを電気信号に変換するというシステムを視覚とするなら、皮膚は光を感じている、と考えざるをえないのです。