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テーブルの上にリンゴがあるとします。日ごろ使われている白色光の下では、リンゴは赤くみえます。しかし、白色光ではなく緑のライトを当ててみるとどんな色に見えるでしょう?なんだか分からない暗い黒っぽい色になってしまいます。
私たちが見ている「色」とは一体何なのでしょう? 今回はテレビや雑誌といったメディアを通して、色の「作り方」についてみていこうと思います。
私たちの住んでいる世界はたくさんの色であふれています。自然が作り出したもの、人の手によって作られたもの、様々なものが多くの色を持っています。なかでもここ50年ほどで爆発的に増えてきたメディアに眼を向けてみると、色についていろいろと面白いことが分かります。
身の回りにあるメディアの代表的なものと言えば、雑誌や書籍などの印刷物です。紙面がきれいなカラーで印刷されているのは今では当たり前です。もうひとつの代表的なメディアであるテレビにしても、カラーではなくモノクロだったりすると、故障してるんじゃないかと思われてしまいます。

視覚的に見えている色は、その色がそこで光っているわけではない

これほど当たり前になったカラーですが、実は印刷物もテレビも、そこにあるほとんどの色がそのままの色のインクで印刷されたり、その色がそこで光っているわけではありません。私たちが見ているそれぞれの色は、元になるいくつかの色の掛け合わせでできています。さらに面白いことに、印刷物とテレビ、この2つのメディアでは全く違った原理で微妙な色の出し方がされているのです。
これを確かめるために何が必要でしょう。ちょっと昔の学校の先生なら虫眼鏡を取り出すところですが、最近はもっと便利なものがあります。それが「USB顕微鏡」です。美容院などで髪の毛の健康状態を見る時に使われたりするので知っている人もいるかもしれません。パソコンのUSBポートに接続してレンズをいろんなものに向けてみると、パソコンの画面上でその拡大映像を見ることができる便利グッズで、簡単なものならネットで数千円程度で手に入ります。
USB顕微鏡できれいなカラーの印刷物を拡大して見てみると、印刷物はポツポツした色のドット(点)からできていることが分かります。子どものころに絵の具を使って絵を描いた記憶から、色というのは絵の具みたいに混ぜ合わせて作るもので、印刷も色とりどりのインクでできていると考えていたかもしれません。しかし実際にカラー印刷物にぐっと近寄って拡大してみると、そこにあるのは青色、紅色、黄色、そして黒色の4色のインクのドットです。それも小さいものから大きく広がって他のドットとつながっているようなものまでいろんなカタチをしています。このドットを「網点」と言います。
カラー印刷物で使われているこれらの4色のセットは、色名であるCyan(シアン=青)、Magenta(マジェンタ=紅)、Yellow(黄)そしてKeyPlate(黒)の頭文字を取って「CMYK」と呼ばれます。理論的にはCとMとYを混ぜると黒色になるのですが、実際には締まった黒にはなりません。そこで、カラー印刷物ではK、つまり黒色を加えています。さらに厳密に言えば、ベースになる紙の白を加えて、印刷物は全5色で出来ていると言っても良いわけです。
印刷物を遠目で見るとCMYKそれぞれの色とはぜんぜん違う微妙な色が、近づいてみると4色のドットの重なりでできています。なんだか騙されたような気分です。でも、どこかでこんな造りの絵を見たことがあると思った人も多いでしょう。そう、19世紀に出てきた「点描画」ですね。作品としてはジョルジュ・スーラの「グランジャット島の日曜日の午後」などが有名です。

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【ジョルジュ・スーラ最大の代表作、グランド・ジャット島の日曜日の午後 1884-1886年(Un demanche après-midi á l’île de la Grande Jatte)シカゴ美術館蔵

ところで先ほど、子どもの頃は欲しい色を作るために絵の具を混ぜたと書きましたが、その時、いろんな絵の具を混ぜていると最後には汚く暗い色になってしまって投げ出したくなった記憶はありませんか? 絵の具を混ぜることで色を作る方法を「減法混色」と言います。
絵の具という素材は太陽光(白色光)の中からある特定の色のみを反射する性質を持っています。太陽の光は、プリズムを通してみると虹のような色のバリエーションに分解できます。つまり、太陽光はいろんな色の光の組み合わせでできているんですが、その光を絵の具に当てると特定の色を除き、それ以外の色を全部吸収してしまいます。したがって、混ぜる絵の具の色数を増やしていくと、ほとんどの色を吸収する一方、反射する色の範囲がどんどん狭くなり、結果的に暗い色になってしまいます。「減法」という言い方は、絵の具を混ぜるとこうした引き算のようなプロセスが起きてしまうからです。

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Image by frankieleonCC BY

 

人間の眼と脳は、視覚的細部を見分けることができない

明るい世界を描こうとしているのに、絵の具を使って微妙な色合いを出そうとするとどうしても画面が暗くなってしまう。スーラはこうしたことを嫌ったのかもしれません。そこでいくつかのテクニックを開発しました。その一つが「視覚混合」という表現法です。
点描画では、複数の色の小さなドットを近づけて並べます。例えば赤と青の小さなドットを近づけて並べ、それを遠くから見ると紫に見えてしまうという仕組みを活用しています。人間の眼と脳はそんな細かいところまで分けてとらえることができないからこそ、こうした仕組みが利用できるわけです。「視覚混合」の基本的な仕組みは、メディアのもう一方の立役者であるテレビやパソコンのディスプレイでも同様に使われています。
液晶ディスプレイの画面は、印刷物の網点のようにいろんなかたちの点でできているわけではありません。拡大してみると、網点に比べればかなり行儀良く、四角い格子の中に3つの色が並んで光っているのが分かります。そしてこの3色は、印刷物の場合とはまるっきり違う、Red(赤)、Green(緑)とBlue(青)という組み合わせです。このセットは「RGB」と呼ばれています。

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Image by Shawn CampbellCC BY

RGBそれぞれを色の付いた光として考えた場合、重ね合わせでより豊かな色を作り出すことができることは容易に想像できるでしょう。例えば赤の光と緑の光を同じ比率で重ねると黄色、緑と青を同じように重ねると青緑色、青と赤では深紅色を作り出すことができますし、それぞれの比率を変えていくともっと沢山の色が得られます。混ぜる色数が増えるほど、絵の具の場合とは逆に色は明るくなってくるので、足し算の混色という意味で「加法混色」と言います。しかしディスプレイも印刷と同様、一カ所にそれぞれの色の光が集中して当てられるわけではありません。
ディスプレイ上ではこれらの色が小さな場所に並べられることでそれぞれの色を作ります。先ほどの用語でいえば「視覚混合」が起きるわけで、その意味では印刷と同じです。でも、今度は3つの色の発光度合によって出来上がる色が変わってきます。
ここでちょっとまとめておくと、印刷物では(黒をのぞいた)CMYによって「減法混色」で色が作られます。ディスプレイではRGBの3色が「加法混色」で色が作られます。これらの基調になる色のことを「三原色」と呼び、印刷のような絵の具セットの場合「絵の具の三原色」、ディスプレイのような光のセットの場合「光の三原色」と言います。絵の具の世界と光の世界、どのような仕組みで色のバリエーションが作り出されるかは分かってもらえたと思いますが、では絵の具と光が交差する現実の世界では色はどのように見えるでしょう。それが文頭でお話しした「赤いリンゴ」に「緑の光」という状況なのです。

リンゴは赤いのではなく、赤以外の色を吸収している

普通の照明の下では赤く見えるリンゴに緑のライトを当てると黒っぽくなってしまいます。光の世界なら、赤に緑を加えると、黄色になるのはすぐに分かるんですが、これはどういうふうに考えれば良いのでしょう。
実はリンゴは「赤という色」を持っているのではありません。絵の具の説明でも簡単に書きましたが、このリンゴの表面は白色光の中から「赤という色」だけを受け付けずに反射してしまい、赤以外の色を吸収しているのです。そこで私たちはリンゴが受け付けなかった赤色の光を眼で受け取ることになります。
では、白色光ではなく緑のライトを当てた場合に何が起こるのか。リンゴは赤以外の色を吸収して、赤を反射しようとします。白色光の中には赤いライトも入っていたので反射することができたんですが、今回の緑のライトは緑だけ。赤は入っていないので反射しようにも反射できません。緑のライトをしっかり受け取った赤いリンゴは何の色も返してきません。その結果、私たちにはリンゴが暗いだけのものに見えてしまう、というわけです。