窓から見る風景、それは私たちにとても不思議な気持ちを抱かせるものです。枠という存在ゆえに、眼前に広がる当たり前の自然や建造物が、まるで自分の内面を描き出した「物語」となりえるからなのかもしれません。
現在、東京・六本木で写真展が開催されているオラ・リンダル(Ola Rindal)の最新写真集『Distance(Pictures for an Untold Story)』は、作家自身の自宅の窓を媒介として、その先に広がる風景やその手前で起こる日常の一部を切り取り、そこに流れていたであろう、あるいは起こるであろう時間を「まだ語られていない物語」として描いています。続いていく緩やかな丘陵、雪をまとう木々、薄ぼんやりとした月光、幼子を抱く若い母親・・・。窓の前に灯されたロウソクの炎は、過去の記憶を誘っているようでもあり、また未来への希望を照らし出しているとも言えます。
『Night Light』より
オラ・リンダルはノルウェー出身でパリ在住の写真家。これまでに『Blindness』『Night Light』などの作品集を発表しています。タイトルからもわかるように、“見えないものに耳を傾ける”という五感的なアプローチが彼の創作のテーマだと言えるでしょう。ノルウェーの森の神秘、長い夜への畏怖が、彼のバックボーンにあることは間違いありませんが、一方では光への渇望をリンダルの作品から感じとることも可能です。
リンダルはファッション・フォトの世界でも評価されており、「Purple Fashion」(仏)や「Acne Paper」(スウェーデン)、「Apartamento」(スペイン)などの雑誌のほか、ルイ・ヴィトンやマルタン・マルジェラのキャンペーンやカタログなどでも活躍しています。日本でもその人気は高く、「Union」や「装苑」でのファッション・シューティングは評判を呼びました。
好きな小説家のひとりとして村上春樹をあげるオラ・リンダル。村上作品がもつ透明感や不可思議さを、彼も共有しているのかもしれません。
■ 写真集『Distance(Pictures for an Untold Story)』(Cornerkiosk刊)
IMA CONCEPT STORE(六本木)、Vacant(原宿)ほかで発売中
■ 写真展
会場:IMA CONCEPT STORE
住所:東京都港区六本木5-17-1 AXISビル3階
会期:~2015年8月12日(水)
休館:会期中無休
入場:無料
■ 関連サイト
オラ・リンダル写真展「Pictures for an Untold Story」
http://imaconceptstore.jp/ud/exhibition/558cdbdfabee7b51b4000001
オラ・リンダル 公式HP
http://www.olarindal.com/
オラ・リンダル インタビュー(「ProCameraman.jp」)
プロフェッショナルな視点から、使用カメラ、フィルムなどについても答えている。
水原希子を撮った作品なども見ることができる。
http://procameraman.jp/Interview/overseas_file11_201403.html
文:和坂康雄