音の陰翳とは何でしょう? そっと目をとじ心を音楽に向けるとき、そこに現れる音の風景は、私たちの記憶を呼び覚まし、想像をかきたててくれます。明るさと暗さの二項だけでない、ひとつの音とそのつながりに深い味わいやニュアンスを感じること、それが音の陰翳なのではないでしょうか。
 

ピアニスト・林正樹は、一音一音の深さにおいて、いま最も音の陰翳をあらわせるアーティストのひとりといっていいでしょう。ニューアルバム『Pendulum』(ペンデュラム)では、アコースティックギターやクラリネットとともに、彼のピアノが静謐で美しい情景を描いていきます。過去の思い出がよみがえり、残像のイメージが心に定着するーーそんな演奏の数々はノスタルジックでありながら、一枚の写真のように消えてなくならない輪郭をもっています。

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ジャズをはじめ、クラシック、ワールド、コンテンポラリーまでこなす、林正樹の多岐に及ぶキャリアが集約した本作、一方では彼の持ち味のひとつである実験性も感じとることができます。いくつかの楽曲で粒子のようにピアノに降りそそぐ電子音。効果音ではなく、ひとつの楽器として得難いパートナーとなっています。

 
ジャケットの写真は、マルセル・ボヴィスが1930年代にフランスの射的場を撮影したもの。ボヴィスはパリの夜景遊園地などをモチーフにした作品で有名ですが、彼もまた、陰翳の意味をよく知る写真家だったことが、CDのカバーやインナーからもわかります。『Pendulum』からは、形あるメディアを通して、五感/総合芸術として音を伝えたいという意志が伝わってきます。
(Photos: Marcel Bovis)

 
 

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■ 林正樹 『Pendulum』(CD)
SPIRAL RECORDS/3,100円(税込)

 

 
■ SPIRAL RECORDS presents
『Special Showcase Live 2015「touch to silence」』

日時:2015年9月23日(水・祝)OPEN 16:00 / START 17:00
会場:表参道 スパイラルホール
出演:
丈青(Pf)with 秋田ゴールドマン(Ba)、Fuyu(Dr)
林正樹(Pf)with Fumitake Tamura a.k.a Bun(Electronics)、Antonio Loureiro(Vib,Vo)
藤本一馬(Gt)with 林正樹(Pf)、橋爪亮督(Sax)ほか
料金:前売4,800円
問い合わせ:スパイラル Tel.03-3498-1171

http://www.spiral.co.jp/e_schedule/detail_1577.html

 

■ 関連サイト
林正樹 公式HP
ニューアルバム『Pendulum』の全曲サンプルが聴けるほか、ライヴ情報なども掲載されています。
http://masakihayashi.com
 
林正樹と建築家・青木淳との対談(ウェブマガジン「CINRA.NET」より)
音楽ホール「sonorium」を設計者でもある青木淳との会話を収録。音楽と建築の共通点は何か? 空間のありかたとは? ジャンルを超えた興味深い内容が展開されます。
http://www.cinra.net/interview/201509-hayashimasakiaokijun

 
文:和坂康雄