あかりを子どものスケールに合わせてあげる

建築や既成のインテリアでしつらえられているあかりというのは、おとな目線でちょうどいいあかりです。おとなにとって丁度いいあかりは、たとえばアリにとっては全然関係のないあかりです。
 
もちろんアリは極端ですが、子どもは身長が低い上に床で遊ぶことも多くて、目線がとても低いのです。
 
照明計画は常におとなの目線に合わせて進んでしまいます。でも、5歳くらいの子どもであれば、目線がダイニングテーブルと同じくらいだったり、あるいはそれよりも下だったりするわけです。そんな子どもからすれば、おとなにとってちょうどいいあかりは自分にぴったりフィットしたあかりとは感じていないはずです。
 
たとえば、おとながちょうどいいと思っているようなフロアスタンドなんて、子どもからしてみたら、街のポール灯のように巨大なものと感じられているかもしれません。ですから、子どものあかりということに関しては、子どものスケールに合うあかりを作ってあげる、というのがまず、一つのポイントになってくると思います。

おとなにはちょうどよいフロアスタンドでも、子どもには大きすぎるもの

おとなにはちょうどよいフロアスタンドでも、子どもには大きすぎるもの

 
きちんと子ども部屋というものがある場合は、子どものスケールであかりの世界をつくってあげると、子どもにとってもとても居心地が良く、楽しいはずです。たとえば、小さなスタンドを子どものベッドサイドにおいてあげるだけでもよいかもしれません。子どもたちにとって、ちょうどいい大きさと距離感を、子どもの目線で考えてみましょう。
 

楽しくファニーな「感じる」あかりを低くしつらえる

たとえば家庭にペンダントライトがある場合でも、ダイニングの真ん中に落とされているのが普通かもしれません。でもペンダントというのは、目線の近くにあることに意味があるので、そういう使い方では、子どもにとっては遠すぎるのです。でもこれが、子どもが遊ぶちょっとしたテーブルに、小さなあかりを低く下げてあげたら、どうでしょうか。
 

子ども用ペンダント

子ども用ペンダント

子ども用のテーブルであれば、子どもにとっても席は低い位置にあると思います。そうしたテーブルの低いところにあかりが落ちていれば、あかりと子どもとの関係性がきちんと結ばれるようになります。重心の低いあかりをしつらえてあげて、器具の大きさも、子どもに合わせた小さなものを与えてあげる。あかりを子どものスケールを合わせるというのは、こういうことなのです。
 
我が家の寝室に、羽根のついた照明器具(カバー写真参照)があります。これはいちおうシャンデリアやペンダントという位置づけで、ちゃんと照度を満たす機能を果たす、あかりをとるための照明器具です。
 
でも、これは照度を満たすだけでない、ファニーで楽しい、「感じる」意味合いの強い照明器具です。子どもにとっても、「明るくする」という機能を満たせばあかりは何でも同じ、ということではありません。照明器具を工夫することで、あかりは楽しむもので、美しいものであるということを、子どもに伝えることができます。楽しいあかりを低い位置にしつらえることで、子どものためにあかりをプレゼントしようという感覚です。
 
 

ホリゾントライトで照らされる積み木を見たら「私、天才かも」と思ってしまうかも

これも「感じる」ための低いあかりになりますが、子ども目線の低いテーブルに間接照明を後ろに入れて、ホリゾントライトの効果を使う、というのも面白いと思います。ホリゾントライトというのは、地平線・水平線から立ちのぼるあかりで、クラシックバレエの舞台などで、奥の床から光が立ち上がっている、あれですね。
 
ホリゾントライトは、物を劇的に美しく見せる効果があります。日常のあかりというよりは非日常的なあかりの演出になりますが、おもちゃを含めて、置いてあるものが劇的にかっこよく見えるのです。
 

筆者が子どものために用意したホリゾントライト

筆者が子どものために用意したホリゾントライト

 
たとえば子どもたちが積み上げた積木も、ホリゾントライトの効果で、思わず「わーお」というくらいに美しくなります。そうすると子どもが「私、天才かも」と感じてくれる効果も生まれますし、ガラクタみたいなおもちゃも、とても美しくて、いとおしいものに感じられる。だからこういうテーブルで遊んでいると、子どもも楽しいんじゃないかと思うのです。
 
私たちおとなの空間では、壁の一部をへこませた飾り棚が建築ではニッチと呼ばれます。ホテルなんかだと、そうしたニッチにホリゾントライトが入っていて、彫刻や花などの置物が美しく演出されていることがありますね。それと同じ効果を子どもに合わせた高さで用意してあげると、子どもにもあかりを「感じる」ということが、きちんと伝わるのです。
 
じつは、うちの息子は歩きはじめたのがすごく遅くて、お座りができるようになったのも2歳くらいからでした。上向きでごろんとするのがいちばん楽な姿勢だったようで、横になっている時間がとても長かったのです。一生歩けないかもしれない、と言われていた時期もあり「一生懸命リハビリしましょう」というところからスタートしました。
 

子どもが寝たきりの時に考えたこと

寝たきりだとつまらないですよね。当時の私としては、横になっていても、すこしでも楽しい気持ちになれるお部屋を作ってあげたい、という気持ちがあったのだと思います。それで目を楽しませてくれるような照明器具を使って、子どもの寝ている部屋を工夫していたのです。
 
私の息子はその後歩けるようになりましたが、障害があって寝たきりの子どもはたくさんいます。お年寄りやおとなでも、外を出歩けなくてずっとベットにいる人もいます。寝たきりの人は、ずっと部屋の中の照明のあかりを浴びて生活しているわけです。天井のシーリングライトを眺めているよりは、お部屋に楽しい照明器具が下がっていたら、ずいぶん違うのではないでしょうか。
 

取材・構成:須賀喬巳