(C)国立天文台

 実は、ハワイには世界でも名だたる天体観測の名所という一面があるのです。ハワイの中でも、特に天体観測が盛んなのは、ハワイ諸島の一番南に位置するハワイ島のマウナケアです。この山は標高4200メートルもの高さを誇ります。

 

ハワイには世界でも名だたる天体観測の名所という一面があり、世界中の研究機関が観測所を開設しています

 ハワイ島の気候は場所によってさまざまです。東部にあるハワイ島第一の都市ヒロでは年間を通して雨が多いのですが、マウナケア山頂付近は、天気の変化があまりありません。空気が乾燥し、快晴の日が多いので、天体観測にはうってつけです。そのため、世界中の研究機関がここに観測所を開設していて、10ヶ国以上の大型望遠鏡が集結しています。まさに、宇宙に開かれた窓といえる場所なのです。

 

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(C)国立天文台

 その望遠鏡群の1つとして存在するのが、日本の「すばる望遠鏡」です。すばる望遠鏡は、高さ22.2メートル、幅は最大で27.2メートルと、とても巨大なものです。この望遠鏡は反射望遠鏡といって、主鏡で反射させた光を集めて天体を観測していきます。反射望遠鏡の性能は主鏡の大きさで決まります。主鏡が大きければ大きいほどたくさんの光を集めることができ、解像度も高くなるのです。
 
 すばる望遠鏡は、主鏡の口径が8.2メートルもあります。このくらいの大きさになると、小さな鏡をつなぎあわせた分割鏡を使う望遠鏡も多いのですが、すばる望遠鏡の場合は、1枚の鏡を使っています。1枚の主鏡を使う単一鏡では世界最大級の大きさを誇る望遠鏡なのです。この大きな鏡を標高4200メートルのマウナケア山頂まで運ぶだけでもたいへんな作業です。すばる望遠鏡は1992年6月から1998年12月まで、6年以上の歳月をかけて工事をして完成させました。それ以来、25年以上、世界トップクラスの望遠鏡として天文学や宇宙物理学の研究を支え続けています。
 
 このすばる望遠鏡は、遠いハワイ島にありますが、日本の研究施設です。日本国民はもちろん、年齢等の条件さえ満たせばどなたでもすばる望遠鏡のWebページから予約すれば見学ツアーに参加することができます。見学日は平日を中心に決められていて、1日に3回の見学ツアーが組まれています。1回のツアーで見学できるのは8名まで。少し狭き門のように感じられるかもしれませんが、それぞれの見学ツアーにガイド役のスタッフがついて、安全に配慮しながら、解説をして回る形なので、このくらいの規模になってしまうのです。

 

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(撮影)荒舩良孝

 そのすばる望遠鏡に、2015年6月に行ってきました。知り合いの旅行会社がすばる望遠鏡の見学を組み込んだツアーを企画したというので、参加させてもらったのです。すばる望遠鏡の見学ツアー自体は無料で、申し込みはWebページで手軽にできるのですが、問題は交通手段です。
 
 マウナケア山頂までは道路が通っていますが、途中、舗装されていない部分もありますので、4輪駆動車が必要です。しかも、マウナケア山頂に乗り入れが許可されているツアー会社やレンタカー会社の車が必要になります。そのような会社で、車をチャーターするか、レンタルすることが求められます。個人で手配するにはハードルが高くなってしまいます。そこで、今回は、ツアーで手配してもらった4輪駆動車に乗ってマウナケアまで向かいました。

 

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(撮影)荒舩良孝

 私たちが出発したのは、ハワイ島の西側にあるコナという町です。ここからマウナケア山頂までは100キロメートル以上の道のりです。しかし、山頂まで一気に行くわけではありません。高山病の予防のために、標高2800メートル付近にあるオニヅカ・ビジターセンターで30分以上の休憩が義務づけられています。(すばる望遠鏡は高地に設置されているため、16歳未満の人、妊娠中の人、健康に不安のある人は見学することができないため、注意が必要です)
 
 6月のコナの街中は日差しも強く、半袖、短パンで過ごしても平気な気候ですが、標高2800メートルまでやってくると少し空気がひんやりと感じられます。30分の高地順応をさせた後、車をさらに走らせて、すばる望遠鏡を目指しました。標高3000メートルを超えると、植物の姿はなく、車窓からは、ただ赤っぽい岩や土が見えるばかり。でも、目線を山の下の方に下げると、雲が広がるというふだんは目にすることのない光景を見て、不思議な感覚になりました。

 

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(撮影)荒舩良孝

 

 そして、すばる望遠鏡の前に到着です。高さ22.2メートルの望遠鏡を収容するドームは高さ43メートルと、15階建てのオフィスビルと同じくらいの高さです。この中に、すばる望遠鏡や観測装置、すばる望遠鏡を操作する観測室などが入っています。すばる望遠鏡はとても精密な装置です。気温の変化によっても星の見え方が大きく変わってしまいます。そこで、望遠鏡の設置してある部屋はマウナケア山頂の夜間の気温にあわせて温度が調節されています。昼間でも肌寒く感じてしまうため、しっかりと防寒して見学に臨みました。

 

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(撮影)荒舩良孝

 ドームの中に入ると、すばる望遠鏡の設置してある部屋に案内されます。初めて目にする巨大望遠鏡の姿には、圧倒的な迫力がありました。この大きな望遠鏡で、宇宙の彼方にある星の光がとらえられているのかと思うと、感動的ですらありました。
 
 すばる望遠鏡で使われている観測機器などを見せてもらったり、ドームの外側からの風景を見たりして、1時間ほどの見学ツアーを終えました。標高4200メートルの高地であるにもかかわらず、はしゃぎすぎてしまったために、私は少し酸欠状態になってしまいました。
 
 マウナケア山頂は、世界でも屈指の天体観測のスポットです。すばる望遠鏡の見学以外にも、マウナケア山頂で日の出を見るツアー、夕日と星空観測のツアーなど、いろいろな旅行会社が企画をしています。ハワイを訪れる機会があれば、マウナケアに足を伸ばしてみるのもよいのではないでしょうか。