過密化が進む大都市で、市民の憩いの場となる緑地や公園をどうやって確保するかは、世界共通の悩みとなっていますが、ニューヨークでは太陽光を使って地下に公園を作るという斬新なアイデアで、この問題を解決しようとしています。
 

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その名も「The Lowline」と名付けられたプロジェクトは、ニューヨークのロワーイーストサイドの地下に残る、1948年に廃線となったトローリー用のターミナルを緑あふれる公園にしようというもの。マンハッタンの中心地からやや東側という開発地としては絶好のロケーションながら、その広大さと古さゆえに長い間、誰にも使われることなく朽ち果てるだけだった空間に、最新のソーラーシステムを使って太陽光を送り届けることで、自然な緑のある空間を創り出そうとしています。
 
太陽光を地下に送る方法ですが、まずビルの上など光があたりやすい場所にパラボラ型の集光器を置き、反射させた光を緑地の上に設置した集光器に集めます。それを地下の天上に張り巡らされたガラスでシールドされたパラボラ型のパネルへと送り届けることで、空間全体へと光を拡げる仕組みになっています。この最先端の太陽光コントロールシステムは「リモートスカイライト」と呼ばれ、デザインを手掛けたraadスタジオのJames Ramseyによると、植物のみならず樹木の光合成を助けるほどの光度を保つことができ、屋外と同じ明るさにできるだけでなく、電力も供給までできるそうです。
 

 
プロジェクトは2012年9月にフルスケールのプロトタイプでのテストを成功させたあと、クラウドファウンディングのキックスタータなどを利用して資金集めを達成。今年10月に最初の空間が公開され、そこを実際に利用する人たちの声を集めながら次の計画を進めて行くということです。
 
このプロジェクトでもう一つ注目したいのは、地下に全く新しい空間を作り出すというのではなく、これまでにある地上のコミュニティにも配慮して、シームレスな関係を作ろうとしているところ。例えば、地下のデザインは若いクリエイターや子どもたちが参加してデザインしたり、地元で人気の小売店がショップを出したりするなどして、地域の交流のきっかけづくりを手助けしています。
 
都市計画といえば、古いものを壊して新しい建築物に建て替えるものだと考えがちですが、これからは、最新のテクノロジーや建築技術を使いつつ、そこに集まる人たちが自分たちも参加して快適な環境を考えながら作り出す、ということにも光が当てられるようになってきたと言えそうです。

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##関連リンク
The Lowline Lab
ニューヨークで進行中の地下緑化プロジェクトLowlineを運営する組織。現在緑地が試験的に公開されており、来年6月までの結果を元に市の計画として正式に採用され,2020年の完成を予定している。
 
raad スタジオ
Lowlineプロジェクトの要となるリモートスカイライトのデザインを手掛けたJames Ramsey氏が運営するデザインスタジオ。他にも数多くの建築物や都市計画を手掛ける。
 
ロワーイーストサイドエリア
マンハッタンの東側に位置するエリアで、21世紀に入って中小企業やアーティスト、移民のための公共住宅が増えるのに合わせて、道路の拡幅工事などが行われ、安全に暮らせる街としての再開発が進められている。
 
 

text: 野々下 裕子