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ストウの晩秋は金色の光に包まれています

ストウの場合、「修復復元事業」には、庭の建築物の修復だけでなく、年ふりいつしか失われた散策路の復元や、育ち過ぎて庭の風景を損なっている木々の除伐が含まれます。普段は閉鎖してメンテナンスしていない場所に入って、庭の除草することもありました。そういう場所に立つ手つかずの木々の力強い美しさ。樹皮に着生した苔がその年月を語っていました。
 

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(c)Yukari Fujitsu

短くなった日脚は、夕方になると、金色の光は低く、木々に差し込んで長い影を作り、空は赤く、草は金色に染まり、水面を輝かせます。もうそろそろ一日の作業も終わろうかという頃に、光に包まれた庭を見ると、日常にいながら、終末の光の悠久の美がそこにあるような、なんともいえない気持ちになりました。これこそ、クロード・ロランが描き、風景式庭園が目指した美の頂点が目の前に現れた瞬間だったのではないでしょうか。
 
また、2001年のストウの秋は、晴天に恵まれ、見事な紅葉に彩られたように思います。ストウの落葉樹は、ブナ、トチノキ、ノルウェーカエデ、トネリコ、ニワトコなどがあり、イロハモミジのような鮮やかさ赤こそありませんが、さまざまな形の木の葉が重なる小径は、黄から朱色の波が次々に映え移り、歩くにつれて違う景色が開ける絵巻を見るようです。ある日のこと、作業をしている場所の近くに1本のチェスナットが立っていました。こんな立派な風格なのに、この樹の存在に初めて気づいたのは、秋の黄葉のなせる業だったのかもしれません。
 

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(c)Yukari Fujitsu

最近、日本でも人気のハロウィン。妖精が悪戯しにやってくる外国のお祭り。イギリスでもさぞ賑やかなイベントなのでしょうか。実は、2001年のストウ庭園では「ハロウィンなんてイギリスじゃ今まで無かったよなあ」というのが庭師のおじさんたちの意見でした。イギリス人のお祭りじゃない、と言いたかったようです。でも、スーパーに行けばハロウィンのグッズでいっぱい。かぼちゃも売っていました。
 
外国のお祭りも商業ベースで盛り上げちゃうのは世界中どこでも一緒のようですね。当時、私と一緒にストウでボランティアをしていたドイツ人学生が、アメリカ滞在中にハロウィンを覚えたとのことで、彼女がランタンを作るのを見ながらわたしも挑戦しました。ランタン用のかぼちゃは、厚皮の中は何にもなくてスカスカ。種が少し入っているくらいで、カッターでわりと簡単にくり抜くことができます。これはストウの仲間にも受けて大成功でした。
 

そんなイギリスご当地ならではの秋の夜祭りというと「ガイ・フォークス」があります。もともとは17世紀に火薬陰謀事件を起こした犯人の名前にちなんだものですが、いつしか11月5日に火を焚いて祝う国民的行事に。ストウでも、焚き火と打ち上げ花火を楽しんで、秋の終わる束の間の夜を祝いました。まあ、飲み食いも無くて火を見るだけ、という感じでしたが…。この頃は、花火売ってます、みたいな看板を見かけたものでした。
 
 

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(c)Yukari Fujitsu

 
 
一方、日本の霜月。野山は、紅葉が始まり霜枯れへ。おおかたの花が店じまいと思いきや、モノクロになりがちな風景に彩りを添える植物があります。それはキクの仲間。キクといっても、園芸世界の間違いなく一大潮流といっても良いくらいに種類が多く、春夏咲くものも多いですが、寒さ増した頃にいいなあ、と思うのがキク属、シオン属なのです。
 

霜枯れの風景に彩りを咲かせるキクの多様さ

この時期美しいキク属のキク、つまり菊ですが、みなさんはどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。よしずで囲まれた小屋にずらりと並べられた大輪菊や懸崖菊の鑑賞会、菊人形、はたまた葬儀の花…そう、立派で厳か、そして整然とした魅力が菊の持ち味と思われていないでしょうか。丹精を込めて、一つ一つの花の形を作り上げるのも日本の古典園芸の素晴らしさですが、菊を上手に使っているお宅の軒先を見ると、そればかりでもないのです。

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洋菊 (c)Yukari Fujitsu

 
繊細な線香花火を思わせる嵯峨菊や、洋菊を上手に取り入れ、高いも低いも楽しみながら、ちょっと咲き乱れた感じが素敵だったりします。さらにいえば、真っ直ぐ咲かなくても良いのです。そもそも、なぜ「懸崖づくり」という仕立て方があるのでしょうか。それは、菊の種類によって岩場の崖のようなところに生え、茎を伸ばして垂れさがる生態を利用しているのではないでしょうか。

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イソギク (c)Yukari Fujitsu

 
崖地のキクといえば、黄色い管状花が白い花びらに囲まれたリュウノウギクやノジギクなど、在来のキクの可憐さは捨てきれない魅力。これらは、日当たりを求めて、他者と競合しそうにない痩せた場所に自分の居場所を求めます。また、イソギクもその名が示す通り、元は海辺の植物ですが、わりに環境適応性が高く、多少日陰に植えても地際に茎を伸ばして陽の光を上手に取り入れます。先日うちの庭で3年目となったイソギクの株を撮影しましたが、1番上の花の房の下をぐるりと2番目の花が取りまき、その放射対称のお手本のような美しさに、感心しました。
 

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ヨメナ (c)Yukari Fujitsu

シオン属に入るのはヨメナやノコンギクの仲間です。薄い紫のはかなげな花びらが路傍に群生する様子は心惹かれる風景です。この頃の草花は少し金褐色を帯びているため、この明るい紫色が見事な補色効果をもって、秋らしい詫びた風情を感じさせます。冬を目前に最後の一仕事を頑張る虫たちへの、なんと賢いメッセージなのでしょうか(もっとも、虫には違う色に見えるかもしれませんが…)。

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コンギク (c)Yukari Fujitsu

 
 
 
こういう花たちを上手に取り入れられたら、秋の終わりのナチュラル・ガーデンがきっともっと良くなる。キクの仲間には、まだまだポテンシャルがたっぷりあるはずです。私の庭探求もまだまだ続きます。