空の旅を一度でもした人であれば、空港の快適さが旅全体の心地よさにいかに直結するかは痛感されていることでしょう。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、障がいのある人や高齢者などはもちろんのこと、訪日外国人観光客も対象として、羽田空港内での移動サポートをスムーズに行うことを目的とした実証実験がこの12月3日から始まりました。
 
羽田空港はこれまでも、ユニバーサルデザインについて当事者参加型の検討委員会を設け改善を行ってきた空港で、イギリスの評価機関からは二年連続で五ツ星を受賞するなど、高い評価を受けています。今回は国際線および国内線旅客ターミナルにおいて、東京国際空港ターミナル、日本空港ビルデング、NTT、パナソニックの4社による、世界初の情報ユニバーサルデザイン高度化の実験が開始されました。
 

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プロジェクションマッピングによる巨大案内板が出現。出国審査の混雑状況をリアルタイムで反映、空いている方への道順誘導を動画で行うなど、動的サインならではの案内を表示することができる。

NTTからは、新しい「誘導サイン」が紹介されました。発着などのアナウンスや騒音が多い空港内で、視覚障害者の方などが施設案内の音サインをストレス無く聞き取れるよう周波数をリアルタイムに調整する技術「インテリジェント音サイン」、ただの壁だった場所にプロジェクション・マッピングの技術を使い、リアルタイムの混雑状況などを示して誘導する「プロジェクションサイン」など、情報の受け手の「聞く」や「見る」を意識させずに快適にするサインです。
 

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光IDが埋め込まれているLED光源パネルにスマフォをかざすと、情報が手元で表示される。

またパナソニックの行った実証デモではLED光源の「光」にスマートフォンをかざすだけで、対応した情報に素早くアクセスできる技術を紹介。これは「光ID」の技術を利用し、照明がバックライトになっている看板やレストラン店頭などの照明器具、またデジタルサイネージのディスプレイなどにも利用することができます。地図にかざしただけで手元のデバイスで詳細情報が見られるようになるというのは、空港以外の駅でも対応してもらいたいような便利な機能です。
 
アプリが介在しているサービスの場合、ネットワークに繋げてのアプリダウンロードが必要です。空港には無料で使えるWi-Fiが設置されており、渡航者の約3割が利用していることから、Wi-Fiに繋げた時、利用ツールが一括パッケージングされたアプリのダウンロードを通知するなどの工夫を考えているとのこと。
 
非常に高度な最先端技術を使いながらも、ユーザーインターフェイスは簡素化し、わたしたちはただ、「見」たり「聞」いたり、写真を撮るようなアクションをすれば良いだけになりつつあります。カーナビでは実現されつつある移動の快適性ですが、身体性や言語も超え、わたしたち一人一人に合った適切なナビが、空港では一足早く現実になりそうです。
 
 
##関連リンク
 
羽田空港、5つ星2年連続で授賞式 スカイトラックス調査(2015年10月13日-Aviation Wire)
http://www.aviationwire.jp/archives/72197
英国の調査会社から、アクセス面やターミナルの使いやすさなどが評価され、「グローバル・エアポート・ランキング」部門で2年連続5つ星を獲得した羽田空港の、授賞式の模様。
 
うるさい場所でもはっきり聞こえる音声を合成(NTT R&D フォーラム2013)
https://labevent.ecl.ntt.co.jp/forum2013/elements/pdf_jpn/S-32.pdf
周囲の雑音を観測し、雑音の特性に応じて、はっきり聞き取れる合成音声を生成する技術が説明されています。雑音の特性に応じて音声の特徴を制御することで、音声の話者の特徴を維持しつつ、聞き取りやすさを向上させることができます。
 
スマートフォンで利用可能な「光ID」技術を開発(2014年12月11日ーパナソニック プレスリリース)
http://news.panasonic.com/press/news/data/2014/12/jn141211-2/jn141211-2.html
LED光源を高速点滅させることでさまざまな情報を送ることができる可視光通信技術を発展させ、その光源から発信されるさまざまな情報を搭載したID信号を、スマートフォン搭載のイメージセンサーと専用アプリを用いて高速受信する技術を独自に開発したというプレスリリース。
 
 
text:かのうよしこ