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ストウ庭園のマジックアワー

屋外で仕事をする場合、寒いし視界が悪くなるので気もそぞろになってきます。ストウ庭園の職員たちも4時には「さあ仕事を終わっちゃおう~」と言い始め、なんだかんだと早じまい。ただ、家に帰ろうかという頃の庭は、作業を終えた充足感とともに、夕焼けの光に満たされるのでとてもすてきです。
 
この時期の仕事の一つは挿し木の苗づくり。挿し木することを「カッティング(cutting)」と言い、落葉が進む頃になると「ハードウッド・カッティング」が始まります。ハードウッドとは広葉樹のこと。落葉樹を指す言葉ですが、挿し木としてはバラや常緑樹なども実践可能です。ストウ庭園では、将来の植樹計画に対応し、地域遺伝子を確保できるよう、庭に自生する在来種の挿し木を行いました。基本的な方法はハーブ類の挿し木と変わりません。
 

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挿し木が済んで春の活着を待つばかり

伸びて1年目の枝を30㎝ほどの長さにとり、根本方向の葉っぱを除去します。枝先の葉は数枚残しますが、蒸散を避けるため葉先の半分を切り落とします。このように処理した枝を、プランターや、養生用の花壇の土に差し込み、空気が入らないように周囲の土を踏みこんで締めます。冬の間は動きのないように見える枝ですが、土に触れた刺激で根を出して活着します。こうしてストウ庭園のバックヤード(作業所)も、挿し木のプランターがたくさん並びました。
 
それから、18世紀の風景式庭園としての復元・再生のためのマスタープランに従って、樹木の伐採し、失われた園路を発掘し復元する事業が本格化します。伐採はチェーンソーを持った職員が行いますが、丸太となった木の周りに散らばった枝を待機させたウッドチッパーへと持っていき、細かな木片に破砕するのはボランティアたちの仕事でした。時には大枝を引きずりながら運び、いつのまにか汗だくになる力仕事でした。出来上がったチップは、トラックに積まれて敷地の外れに掘られた大きなたい肥場に運ばれていきます。
 

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スタンプグラインダーの下で直径50cmほどの切り株が削られている

伐採の仕事は、職員もボランティアも一斉に取り掛かって、にぎやかな作業ですが、伐採後の木の株の始末は職員と二人で地味な作業でした。スタンプグラインダーという大型機械を使うのですが、回転する機械刃が株を削り、粉砕された根を土の中に埋めます。土に埋められた木の根はやがて朽ちて消滅します。この機械は安全性も高く、難しい仕事ではありませんが、大きな木の根をじっくりと削り出すので、時間がかかります。作業中、体をほとんど動かさずにグラインダーの刃先を注視しているので、寒さが身に沁みて、挙句の果ては眠気に襲われるのでした。
 
こうして、寒さや時間と闘い、気もそぞろな作業をしながら、ストウ庭園の職員たちは何かを待っている気配。まもなくクリスマス休暇がやってくるのです。
 

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(c)Yukari Fujitsu

 

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ホーリーの枝を売る

ある日のこと、庭で実のなったセイヨウヒイラギの枝を切り取る作業をしました。何かと聞けば、クリスマスの飾りつけとしてレセプションセンターで売るためでした。セイヨウヒイラギは「ホーリー(Holly)」と呼ばれ、クリスマスカードの絵などによく描かれていますが、一体どんな飾りつけをするのでしょうか?職員が私にもと少し分けてくれましたが、飾り方がよくわかりません。聞けば飾り方に決まりはなくて「暖炉とかに飾るといい」ということでした。
 
セイヨウヒイラギは、モチノキ科の植物。日本の「ヒイラギ」は葉の形もよく似ていますが、こちらはモクセイ科で別種です。モチノキ科は日本でもモチノキ、クロガネモチ、ソヨゴなどが庭園木として知られ、どれも赤い実を鑑賞しますが、実がなるのは雌株だけ。ホーリーも雌雄あって赤い実がなるのは雌株です。対して日本で見かけるヒイラギは、赤い実はなりませんが、11月から12月にかけてキンモクセイを白くしたような小さな花を枝にたくさん付けます。花の香りはキンモクセイと少し異なっていて、花粉やハチミツの香り。これもまた冬場に心が暖かかくなる香りですてきです。
 
こうした仕事の合間にクリスマスカードの交換や、お祝いごとがやってきて、仕事場もなんとなく楽しい気分に包まれます。やがて職員のみんなで出かけるお昼も、クリスマス・ランチのパーティーに。普段の食堂はストウの屋敷の中とはいえ、通用口から廊下を通り抜けるだけ。それが、この日は屋敷中央の吹き抜けの大広間に通され、大理石の柱と無数のレリーフに飾られたドーム屋根を見上げてパーティーのお呼びがかかるのを待ちます。
 

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ストウ食堂のクリスマス

始まったパーティーはいつもの食事を少しグレードアップ。でもクリスマスらしい飾りつけやワインの振る舞いがありました。筒状のクラッカーを二人で引っ張って鳴らします。クラッカーの中には、しばしば紙の王冠が入っており、大人もちゃんとそれをかぶっておどけます。カラオケで歌う人もいて楽しい時間でした。
 
日曜日はクリスマス礼拝があると聞いて、グリーシアン・ヴァレーの殿堂に出かけました。この殿堂は、ストウ庭園の建築物の中でもシンボル的存在であり、ストウの邸宅についで立派な建物。普段中は閉じられていますが、特別な機会に公開されます。建物は高く吹き抜けた白亜の壁に、ストウを治めた一族の栄光を称えるレリーフ、小さな祠、ローマ風の彫刻像などがあります。キリスト教の礼拝堂ではありませんが、ストウ庭園の関係者が厳かな気分で集うのにぴったりです。
 
朝10時、行ってみるとすでにたくさんの人。みなで祈祷をし、賛美歌を歌い、ミサらしい行事が終わってみると、彫刻像のおさまるニッチにたくさんのホーリーの枝。少々冷たい印象だった建物に息が通ってすてきな雰囲気でした。
 

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地元パブでストウ庭園関係者とクリスマス会

翌日、23日は早めに仕事を終え、地元のパブへ。ストウ庭園も仕事おさめです。ギネスや、ウイスキー、音楽、談笑。ストウ庭園チームは、これから1月2日の再会まで、約1週間のお休みです。こちらのクリスマスは日本でいうお正月のような家族行事。親兄弟に会って、友達も呼んでローストビーフなどのオーブン料理を囲んでプレゼント交換をして、ゆっくり家で過ごします。休みの間はわたしもいろんな人のおうちに呼んでもらい、ご馳走をいただいて、くつろいだ楽しい時間を過ごしたのが、今でも懐かしく思い出されます。