一つ、みなさんにイメージしてほしいことがある。
 
「エコ」「フェアトレード」という言葉から、どのようなビジュアルを思い浮かべるだろうか。エコはやはりグリーンのイメージだろう。豊かな森や山。明るい日の光がさんさんと降りそそぐフェアトレードはどうか。赤茶けてひびが入った工場で、じぶんの作った製品を誇らしくかかげる異国の職人の笑顔。逆光に包まれた、まぶしいスナップ写真。
 
おおむね、こんなイメージではないかと思う。
 
こんなエコやフェアトレードなものづくり、社会のあり方を指し示す「エシカル」という言葉がある。直訳すると「倫理的な」という意味のこのことば、現在日本では10人に1人が知っている程度。ことばの定義にはいろいろなバリエーションがあるけれど、私が参加する「エシカル」ファッションのアパレルブランドINHEELS(インヒールズ)では、環境・社会への負荷をおさえた服づくりをもって、エシカルを名乗っている。

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エシカルファッション、その「正しさ」「優しさ」「フレンドリーさ」

INHEELSに参加してから2年半、エシカルファッション界で流通するアイテムや販促用のビジュアルやPOP、SNSでの活動報告など、さまざまなイメージをみてきた。それらの特徴は光の使い方。その白さと、明るさだ。例えば、こんなイメージ。
 
清潔な真っ白いシャツに、つばの広いペールトーンの帽子をかぶった女性。少し目を細め、満ち足りた顔でほほえんでいる。少しぼやけた背景の木々にはあざやかな緑が広がり、その隙間からたっぷりと日の光が差しこむ。女性はこう話しかける。
 

これからは、モノの背景まで愛おしむことが大事な時代です。この製品がどのように作られたか知ることは、あなたの生活をより豊かにします。そんな真っ当な消費のあり方を通して、地球や社会に優しいものづくりのあり方を、みんなで考えていきましょうね。

 
魅力的なイメージだと思う。それは、エシカルファッションの「正しさ」「優しさ」「フレンドリーさ」を、余すところなく伝えきる。
 
しかし、私自身は、そんな「清廉潔白なエシカルファッション」以外のイメージを求めていた。私にとってファッションは、六本木や西麻布や恵比寿を歩き回り、友人と飲みすぎなほどワインを空けたり、ミラーボールが回るクラブの中で活動する自分を武装するものだったから。せっかく豊かなこの国に生まれたのだから、今の生活を思いきり楽しみたい。でも、自分の半径5mの幸せのためだけに働き、遊ぶ生活にもどこか腑に落ちない。そんな思いを感じながら、エシカルファッションに関連する本や映画を手に取ったり、友人と夜通し飲んだりしていた。
 

谷崎潤一郎『陰影礼賛』にみる、エシカルファッションへのヒント

左上の物体が問題の「コロッケ」

この違和感にうまく言葉にするヒントとなったのが、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』だった。
 

われわれ東洋人は、暗いと云うことに不平を感ぜず、光線が乏しいなら乏しいなりに、却ってその闇に沈潜し、その中に自らなる美を発見する。然るに進取的な西洋人は、常により良き状態を願ってやまない。蝋燭からランプに、ランプから瓦斯燈に、瓦斯燈から電燈にと、絶えず明るさを求めて行き、僅かな蔭をも払い除けのけようと苦心をする。(『陰翳礼讃』より、文章一部中略)

 
この美しいエッセイは、厠、漆器、紙、料理、羊羹、建築といった様々な生活の品を素材にしつつ、西洋的な文化観と東洋的な文化観を比較し、陰翳の美しさを評価する。
 
私は、まさに谷崎がつづったような、陰翳のゆたかさを持ったエシカルファッションをつくってみたい。穏やかな昼下がりの真っ白い光ではなく、真夜中の街頭やネオンが発する影をふくんだ灯りが似合う、ちょっと妖艶でモードなファッション。ビジュアルの中の彼女は、こんな言葉を発する。

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わたしは、あなたに清く正しく美しい生活を送ってほしくて、この服を差し出すのではないのよ。なぜって、わたし自身が、そんな生活を送っていないから。
 
もちろんわたしが身につける多くの服はエシカルファッション。でも、昨日はむしゃくしゃしていて、欲しかった帽子を衝動買いして、ファーストフードを買い込んで、部屋の暖房をかなり強めにして、ハイネケンをがぶがぶ飲みながら全部食べてしまった。わたしにだって、地球環境や社会貢献を何も気にせず、じぶんの欲望を第一に行動するときがたくさんある。
 
でもね。そんなじぶん本位の欲望と同じくらい、人に優しくしたくなったり、環境や社会のよりよいあり方や、それに対して自分がなにをできるのか、ふと考えることもあると思うの。だからあなたの心の中でそんな気持ちが占める割合の分だけ、エシカルファッションに親しみを感じてほしいなとは思う。

 
じぶん本位の欲望が陰翳かどうか、考える余地はある。でも、人間の心を考える時しっくりくるのは、どこもかしこも真っ白な光が満ちている澄みきった場所よりも、明るいところもあれば暗いところもある、そんな陰翳を含みこむ場所のイメージではないだろうか。
 

エシカルファッションを「未来の普通に」

そんなイメージの持ち主からしたら、今のエシカルファッションは、白々しい位まぶしい存在に見えてしまうに違いない。実際に私たちはよく「意識高い系」とラベリングされる。でもだからこそ、そんな人達ともコミュニケーションするために、陰翳をもったエシカルファッションというちょっとした変わり種が、意義をもてるのではないだろうか。
 
それを広めていくためにやるべきことの一つは、エシカルファッションに関わる人間もまた、陰翳を含んだ心を持っていることを伝えることだ。私たちは、あなたの悪しき習慣を正しにきた宣教師ではない。私たちも、あなたと同じ欲望を持ち、自分の人生を楽しみたいと思っている。深酒もするしフェスにも行くしセックスもする。でも同時に、少し社会貢献なんてものにも興味をもっていて、その部分をエシカルファッションとして表現している。
 
こんな風に陰翳をもったエシカルファッション、陰翳をもった人間の心を考えていくことは、新しいライフスタイル、つまり「未来の普通」を生み出す一つの道すじになるのではないか、そう思える。それは、自分の中に矛盾する複数の価値観が同居することに向き合い、その一つ一つを肯定して生きてゆく、ハイブリッドなアイデンティティを持った人間像を照らし出す。そんなカオスな人間像は、すごく健やかだし、なにより美しい。私はエシカルファッションを通して、この新しい人間像をこれからも追求していきたいと思っている。
 
 
#関連リンク
■エシカルファッションをCOOLでPOPに!
 エシカルファッションブランドINHEELSプロデュース・アート本出版プロジェクト
 http://www.booster-parco.com/project/32
 
■エシカルファッションブランド INHEELS
  公式サイト: http://jp.inheels-ef.com
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