メルセデスベンツのドアは、重厚なブランドイメージに相応しい開閉音が設定されています(original image: Cristian BortesCC BY))

 

サウンドロゴが注目されてきた背景には、マス広告の効果の低下があります。CMをきちんと「見てくれる」人がいないなか、CMを「聞かせる」手法が求められているのです

テレビCMの中で企業ロゴと一緒に流れるメロディや効果音を「サウンドロゴ」と呼びます。このサウンドロゴがすっかり、ブランド要素として市民権を獲得してきました。「コッコロも満タンに、コスモ石油」や「ヤマ~ダ電機」、「タイガー炊飯ジャー、たきたて」などは、耳にこびりついて離れない名曲と呼んでよいかもしれません。
 
2015年から、音声情報も企業の商標として保護される対象となりました。ただ最近、サウンドロゴが注目されてきた背景には、マス広告の効果の低下があります。テレビはもはや、別のデバイス(PC、スマホなど)を立ち上げながら、そのついでに見られているのが実情です。特にCMをきちんと「見てくれる」人はほとんどいません。だから、CMを「聞かせる」手法が求められているわけです。
 
ただし、サウンドロゴを上手く使って、さまざまな発展的なコミュニケーションを行なうことも可能です。インテルが、「パン・パパパパン」という独特のジングルにあった面白動画の投稿コンテストを実施したことがあります。また、日本コカ・コーラでが「5 トーン」と呼ぶサウンドロゴを渋谷駅(JR、東急)の発着チャイムに使用した例もありました。

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「この木 何の木 気になる木・・・」の歌詞でなじみ深い、日立グループのCMに登場する「モンキーポッド」。その楽曲を耳にするだけで、日立グループのイメージが浮かんできます(original image: Hitachi’s tree in Moanalua Garden, Hawaii, USA)

音楽を使ったブランディングは、長期記憶を形成する、古くて新しい広告方法

このように、ブランド名やメッセージを消費者の頭の中に植えつけるだけでなく、思わず口ずさんでしまうようにする(再現化)効果があるのがサウンドロゴといえるでしょう。ただし「耳にこびりつく」のと「うざい」のは紙一重です。単に露出すればよいのではなく、適切な発信量管理を図るべきケースもたくさんあるように思われます。
 

ブランドへの接触・使用体験と聴覚情報とを組み合わせる手法は、経験価値を高めるマーケティング戦略として、取り組むべきテーマのひとつといえます

「CMソング」と一言で括られますが、実は4つのパターンがあります。
 
第一には、ブランド名や特性を歌詞の中に入れる「テーマソング」です。「消臭力(エステー)」「日立の樹(日立グループ)」「チョコレートは明治」「青雲の歌(日本香堂「青雲」)」などがその代表例です。これにより、音楽を通したブランド名称の定着が可能ですが、CMをある程度以上、気長に投下し続けないと効果が出ないのは言うまでもありません。
 
第二は、ブランドコンセプトに合った曲をタイアップ等によって開発する「イメージソング」で、こちらは歌詞の中にブランド名は入りません。資生堂やコカ・コーラなど、過去に数多くの例があります。最近では「ウイスキーがお好きでしょ(サントリー角瓶)」などが成功事例でしょう。曲がヒットすることで、歌番組やステージなど、広告枠以外の場でも宣伝してもらえるメリットがある反面、一過性の流行で終わる可能性も出てきます。
 

サントリーウイスキー角瓶『つまみ食い』篇より

 
第三の手法は「替え歌」で、著名な曲の歌詞の全て、または一部を変更し、ブランド名やキーメッセージを入れる方法です。「狼少年ケンのテーマ」の替え歌を使用したロッテ・フィッツ、「古い日記」(歌・和田アキ子)を替え歌にしたサントリーの黒烏龍茶の例などが記憶に残るところです。これは非常に憶えてもらいやすい手段ではあるものの、俗っぽくなりやすいというきらいがあります。
 
第四には、「既存(著名)曲の活用」というオーソドックスな方法です。ブランドの権威を高めるためにクラシック音楽が使われるケースも多いのですが、単なるBGMで終わる可能性もあります。ブランドイメージとの関連性の強い楽曲を使用した例としては、キリンラガービールの「乾杯」(長淵剛)、ケンタッキー・フライド・チキンのXマスキャンペーン「すてきなホリディ」(竹内まりや)などを挙げることができます。

 
実はわが国では江戸時代に、紀伊国屋文左衛門の「かっぽれ」や、平賀源内が作詞作曲した歯磨き粉「漱石膏」のテーマソングなど、音楽を使ったブランディング策がいくつか生まれています。音楽はリスナーの感情を揺さぶるとともに、長期記憶を形成する、古くて新しい広告ツールなのです。

 

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メーカーにより意図的に開発されている「ブランドに相応しい音」。登録商標されたハーレーダビッドソンのエンジン音はブランド要素そのものといえます(original image: taymtaymCC BY))

いまや「ブランドに相応しい音」は、意図的に開発されているのが実態です。
 
ハーレーダビッドソンのエンジン音(登録商標)はブランド要素そのものですし、メルセデスのドアも重厚なブランドイメージに相応しい開閉音が設定されています。ポルシェでは50人ほどの音響デザイナーを、BMWでは「サウンド・クリーニング」の専門家を開発陣に配置し、心地よい製品音づくりに関与しているとのことです。他にも有名な例では、ウインドウズの起動音、ケロッグのシリアルを食べるときのバリバリ音、オッタクリンガー(オーストリア)の瓶ビール「へレス」の開封音などは、ブランド体験という視点から開発された事例といえます。スターバックスの店内でどのような曲を流すかは、社長自らの業務案件であるほど重視されています。
 

日本企業の製品において、「消音」「静音」を施した例はいくつもありますが、こうした聴覚ブランディングを本格的に志向した例は乏しいといえます。冷蔵庫の開けっぱなし防止音や洗濯機の動作終了音はあくまで「警笛」にすぎず、ブランドとの関わりは想定されていません。また4月以降に国内で出願された音商標のほとんどは「サウンドロゴ」にとどまっています。ブランドへの接触・使用体験と聴覚情報とを組み合わせる手法は、経験価値を高めるマーケティング戦略として、取り組むべきテーマのひとつといえます。

 

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音楽と商業の結びつきが深い日本ですが、その最新形「サウンド・ブランディング」への取り組みはまだその端緒についたばかり(original image: © absurdovruslan – Fotolia.com)

音楽は、人と人とを結びつけるメディアです。「一緒に聞く」「一緒に歌う」だけでなく、「曲を贈る」「曲を作ってあげる」といった行為の中に、ブランドを想起させる音楽を入り込ませることは大きな効果につながります。アメリカンファミリー生命が「まねきねこダックの歌」を替え歌にして知人にプレゼントできるキャンペーンを実施した例、「ブカツの天使」の中の応援ソングをカラオケボックスで歌い、全国大会で優勝するとCDデビューできる特典を与えた大塚製薬「ポカリスェット合唱部」キャンペーンの例などは、その典型的なパターンです。

 
最近では「社歌」にも注目が集まってきています。10年ほど前、日本ブレイク工業の社歌が話題になったのをきっかけに、リクルーティングや企業PRにも使えるブランド要素として力を入れる企業が出てきました。布袋寅泰が作詞作曲したローソンの「Heart To Heart」、秋元康に作詞を依頼したキッコーマンの「おいしい記憶」「おいしいってなあに」などは、新しいタイプの社歌といえるでしょう。

 
欧米では、「ソニック・ブランディング」や「サウンド・ブランディング」といった概念が(いくつも)提唱されており、関連した研究も進んでいます。わが国は歴史的に音楽と商業との結びつきは深く、実践が先行している観もありますが、今後の研究課題として注目されてくる分野のひとつと思われます。

 
 
 

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簡単にモノが売れない時代のなか、旧来的な視覚中心のコミュニケーションだけではなく、五感を通じてブランドを伝える具体的な方法がいま、様々な企業で実践され成功を収めています。五感ブランディングの最先端を具体例とともに紹介していきます。
http://media.style.co.jp//2015/09/2600/